7.1. Story 4 副都心決戦

4 屋上にて

 デンマーはあっけに取られた。
 スクリーンの赤い点が徐々に輝きを失って、全て消えたのだ。
 怒りに任せて机を一つ叩くと立ち上がった。
「潮時か。後は屋上からシップで――」

 首筋に冷たいものが当たるのを感じてデンマーは言葉を飲み込んだ。
「屋上とやらに連れてってもらおうか。へたな真似をすると首と胴体が泣き別れになるぞ」
 声はするが人の気配はなかった。
 デンマーは太った体をふうふう言わせながら、コックピットに作られた隠し扉を開け、屋上へのエレベータに乗り込んだ。
 首筋に当てられた冷たい何かは離れようとしなかった。

 
 屋上に着くとリチャードとセキが降りてきた。
「こいつがデンマーか」とリチャードが尋ねた。
「ああ、逃げ遅れた愚か者だ」
 デンマーがこわごわ振り返ると、そこにはトカゲの顔をした男が立って刀を向けていた。
「私にご用でしょうか?」

「聞きたい事がある。これは全てクゼ・ミットフェルドの命令か?」
 デンマーは信じられない物を見るような顔付きになってリチャードを見返した。
「何故、その名を――」
「いいから答えろ」
「答える義務はありません」
「ふっ、こいつ、自分の置かれた立場がわかっていないようだ。セキ、ロープを探してこい」
 セキがシップの脇の備品棚に置いてある太いロープを持ってくると、リチャードは満足そうに笑った。
「こいつの両足だけを縛れ」
 言われるままにセキはデンマーの両足を固く縛った。
「リチャード、大分長さが余っちゃうよ」
「それでいいんだ――セキ、デンマーをビルの端まで連れて行ってやれ」

「な、何をするんです」
 セキはデンマーを抱えるようにしてビルの端まで引きずっていき、そこに立たせた。
「よし、そこでいい。さあ、デンマー。回答次第でお前はここから飛び降りなきゃならん」
「わ、私を敵に回すのは得策ではありませんよ」
 刀を鞘に収めたケイジが無言のまま、デンマーの背中を押し、デンマーの姿は消えた。
「わぁ!」
 リチャードがロープの端を持っていたのでデンマーの体はビルの屋上から宙吊りの形になり、ぶらぶらと揺れた。
「安心しろ。ロープの端は持っている」
「た、助けて」
「では質問に答えろ。《虚栄の星》のクゼはこの爆破テロを知っているのか?」
「い、いいえ。私の個人的な趣味です」
「ドリーム・フラワーもそうか?」
 デンマーの回答が一瞬遅れ、リチャードはロープを持つ手を少し緩めた。
「わぁ!」
 デンマーの体が再び落下を始め、すぐに止まった。
「アメリカ、アメリカ本社のペスライル・セビの命令です」
「ペスライル・セビだな。本社の場所は?」
「ヒューストン……もう止めて」
「最後の質問だ。お前はこの星の人間か?」
「違います。違います。『エテーリアン』です」
「ふん、最近では『都』の住民をそう言うのか。よし、わかった。ご苦労だったな」
 リチャードは持っていたロープを離した。

 セキがリチャードを問い正した。
「リチャード。どうしてロープを離したの?」
「お前かケイジがロープの端を持っていると思った――だが他の星の人間をこの星の法律では裁けない。ああするのが一番いい」
「ふーん」
「そんな事より次はアメリカだ。ペスライル・セビを潰す」
「わかった」
「ケイジ、ここまでくる間にドリーム・フラワーを見かけたか?」
「いや、倉庫らしき物はなかったな。地下ではないか」
「捜査は蒲田に任せるか。では地上に戻ろう」

 
 ビルの前の広場に降り立つと蒲田たちがやってくるのが見えた。
 ケイジは噴水脇で眠るティオータとその隣でこと切れた唐河を発見した。
「ティオータ。唐河と刺し違えたか」
 リチャードが言うとケイジが首を横に振った。
「眠っているだけだ。こいつはこんな事じゃ死なない。孫ができたばかりだしな」
 ケイジはティオータを抱え上げるとさっさと去っていった。

 『草』の藤がリチャードに報告をしにやってきた。
「リチャード様、デンマーの姿が見当たりません。ビルから落下したはずですが」
「……あの肥満体め。衝撃を吸収したな」
「えっ、高層ビルから落ちたのに無事なの?」
 セキが驚いて言うとリチャードが頷いた。
「全く世界は広いな――さあ、セキ。帰ろう。アメリカに行くまでもえとゆっくりと過ごすといい。お前の兄妹たちも来る。忙しくなるぞ」

 

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