目次
2 ブルーバナータワー
ティオータ対サーティーン
甲州街道から高層ビルに向かう広い道には人の姿も車も見当たらなかった。
廃墟になったような広い幅の道を歩いていくと目の前に都庁と高層ビル群が見えてきた。
「ブルーバナー社のビルは?」
リチャードが尋ねるとトーラが答えた。
「このビル群の奥、駅で言うと西新宿ですね」
「とりあえず妨害はないな。直行しよう」
一行が都庁を右手、中央公園を左手に見ながら進むとブルーバナーのビルが見えた。
雲に隠れた太陽の鈍い光を反射した現代的なデザインの建物が静かにそそり立っていた。
「二手に分かれよう。爆弾の発見が最優先だ、そちらの調査をセキ、トーラ、バフ、そして私。ケイジとティオータはビルの中に入ってくれ」
ビルの前は広場になっていて噴水池が設置されていた。
ティオータが進むと、ばらばらと男たちが出てきた。
「おいでなすったな」
ティオータが誰もいない空間に向かって言った。
「ケイジ。こいつらは任せるぜ。おいらは決着をつけなきゃならん奴がいる」
ティオータは噴水の脇に座る一人の男に向かっていった。
「サーティーン。こんな事になるんなら、大都に闇市ごと潰させちまえば良かったよ」
サーティーンと呼ばれた男、唐河十三はゆっくりと立ち上がった。
「ティオータの兄貴。今のおれには何も残っちゃいない。この星に来た時と同じく無一文になっちまったよ」
「散々、いい思いしてきたんだ。もういいだろう。引導を渡してやる」
「その言葉、そっくりそのまんま返すよ」
唐河の合図で手に日本刀や鎖鎌や棍棒を持った男たちがティオータを取り囲もうとした。
「邪魔をしないでやれ。お前らの相手は私がする」
声と共にケイジの姿が突然に現れ、ティオータの前に立った。
「ちっ、一番厄介な奴が出てきた」
唐河は吐き捨てるように言うと男たちを退却させ、自分は噴水の周りを半周回った。ケイジは男たちを追いかけてビルの建物に向かった。
「兄貴。ここで決着つけようや」
「望むところだ」
ティオータは言うなり、唐河に向かって飛びかかった。
最初の爆発?
トーラとセキが空から、地上をリチャードとバフが調べる事となった。
「隊長、時間がないぜ。どうすんだよ」
「何か所か爆破させてから調べるしかなさそうだ」とリチャードは言ってヴィジョンでチコと蒲田を呼び出した。
「チコ、どこにいる?こっちは都庁近くだ」
「ああ、リチャードさん。今は東口です。範囲が広すぎて――」
「確か予告では十分おきと言っていたな。とりあえず幾つか爆発させるしか手がかりは掴めんだろうが、10時までにはケリを付けよう」
「10時というと六発ですね?」
「腹が立つが仕方ない。それまでに別働隊が片をつけるか、こちらが爆弾を処理するか、いずれにせよそれ以上の被害は出させない」
「別働隊とは――」
蒲田が言いかけた時、爆発音が響き渡った。
「何だ。まだ9時前だぞ」
リチャードに言われ、チコが答えた。
「8時50分を回った所です。今のは西口ですね。こちらでは何も聞こえなかった」
「――なるほど。別働隊が戦闘に入ったな。大吾、まだ突入しなくていいぞ」
デンマーはコックピットの椅子から飛び上がりそうになった。いきなりかすかな爆発音が聞こえたからだった。
「プログラムのミスか。いや、まだスイッチは押していないから荒くれ者が下で暴れ出したのだろう。そろそろこちらも準備するか」
デンマーは食べかけのフライドチキンを皿に戻し、指をぺろりと舐めてから、嬉しそうに机の上のスイッチを押した。
スクリーンの無数の赤い点の一つが移動を開始した。
ティオータは水煙の上がった後の霧が漂う広場にいた。
「おいおい、サーティーン。いきなり『水爆弾』かよ」
「兄貴に勝つにはこれしかないんでね」
唐河の声が霧の中から聞こえた。
「こんな事しても勝てないぞ」
「さあ、どうだか。あんたも老いぼれだ。昔とは違うぜ」
霧の中から幾つもの水の塊がティオータ目がけて飛んできた。ティオータは最小限の動きで攻撃を避け、霧の中へと進んだ。