6.9. Story 2 後日談

4 リンのその後

 リンは六人の女性と結婚した。始めに沙耶香と《ネオ・アース》で暮らし、《花の星》に移動した。《エテルの都》、《オアシスの星》、《巨大な星》の順に回って、再び《ネオ・アース》に戻った。
 1986年、沙耶香との間に双子が生まれ、白(ハク)と黒(コク)と名付けられた。ほどなくジュネとの間にも碧(ヘキ)が生まれた。その後ニナとの間に緑(ロク)、アダンとの間に黄(コウ)、再び沙耶香に戻って赤(セキ)が生まれ、ミミィとの間に紫(むらさき)、葵との間に茶々(ちゃちゃ)、ジュネとの間に紅(くれない)が生まれた。
 こうしてリンには九人の子供ができた。

 
 《花の星》に暮らす末っ子のくれないが二歳を迎えた頃、リンは沙耶香を誘って旅行に出かけた。
「どこに行くんですの?」
「『ディエム』を巡る旅なんかどうかなって」
「素敵です。なかなか見る機会ありませんもの」
「沙耶香も実物を見た事ないんだね。僕も初めてなんだ」

 
 二人は世界各地のディエムを見て回った。
「月の裏側にあるっていう暗黒のディエムだけは見つからないらしいから、これが最後だね」
 アメリカの荒野のディエムを前にしてリンが言った。
「不思議です。どうしてこのような物が存在するのでしょう」
「わからないなあ。何か語りかけてくるかと思ったけど何もなかった」
「欲張り過ぎですわ。それは学者の領分でリン様の為すべき事ではありません」
「うん、でも世に現れたのが1970年っていうのがどうしても引っかかってさ」
「……」

「そうだ。リン様。未知さん、覚えてます?」
「もちろん。確か今は――」
「ニューヨークに住んでらっしゃいます。リン様の取材で『都鳥』に通われていたアメリカ人の記者の方と仲良くなられて、昨年、結婚されました」
「へえ」
「もう連絡はしてあります。今からニューヨークに参りましょう」

 
 川にかかった大きな橋を見上げるこじゃれたレストランでリンたちは未知と再会した。
「ふーん、じゃあ未知は今は『未知ワトソン』なんだ?」
「『今は』ってどういう意味よ。ずっと変わらないわよ」
「未知さん、ごめんなさいね。急に連絡して」
「いいのよ。『リンと沙耶香と食事したの』って言ったら、うちのダンナがうらやましがるわ。二人は有名人だもの」

 
 レストランを出ると川を臨む夜景が美しかった。
 暗闇の中から一人の浮浪者風の男がよろよろと現れ、リンたちに近づいた。
「リン」と未知が声をかけた。「無視していいわよ。物乞いだから――あたし、車取ってくるからここにいて」

 去っていく未知を見送ってから、リンは男に話しかけた。
「ずっと外で待ってましたよね。何か用ですか?」
「……銀河を救った英雄に頼みがある」
「何ですか?」
「ここからはるか西の砂漠にこの星の命運を握るある物が眠っている。君にそれを――」
「排除しろ、ですか?」
「いや、君の目を見ていると自分を思い出す。既に戦いの一線を退いた男の目だ。なので排除しろとは言わないが、君の目で確かめて欲しい。それが如何に危険な物であるかを」
「――なるほど。やってみます」

 
 1990年、リンは突然に皆の前から姿を消した。

 そして、話は2003年までその続きを待つ事となる。

 

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 ジウランと美夜の日記 (1)

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