6.8. Story 2 ヴァニティポリス

3 ゴシック

 ゲルシュタッドに見送られ、リンたちはゴシック地区に入った。重厚な建造物が並ぶ重々しい雰囲気の町並みだった。
「ここで待ってるジノーラはどんな奴だ?」
 コメッティーノがリチャードに尋ねた。
「私もよくは知らないが、世俗を超越して、何かもっと大きなものを見つめている感じの小柄な紳士だな」
「へえ、それにしても古い建築様式だな、この地区は」
「いや、この奥にはもっと古い建物が並んでいるらしい。《古の世界》の雰囲気に浸りたければ旧文化地区を訪れればいい」

 
 やがて一同は大きなドームの前に出た。扉の前ではリチャードの言った通り、仕立ての良さそうなチェックの服を着た銀髪の小柄な紳士が待っていた。紳士は軽く片手を上げ、歩み寄ってきた。
「やあ、やっといらっしゃいましたね。ここでは何です。中に入りましょう」

 
 連れられて入った建物は天井が高く、がらんとしていて涼しかった。
「あんた、ジノーラさんだね?」
 コメッティーノの声が大きく反響した。
「左様、私は『星読みのジノーラ』にございます」
「星読み?占いでもすんのかい」
「そういう解釈もありますな。ただ私の場合は本当に星を見るだけなのですよ。想像してみて下さい。美しい夜空に瞬く幾多の星々、その星の一つ一つに様々な物語があるのです。これほど感動的な光景はありません」
「あ、あんたが浮世離れしてんのはよくわかったよ。で、こっちも自己紹介しなくちゃなんねえよな」
「それには及びませんよ。コメッティーノ議長。あなた方は有名人です。リチャード、ゼクト、水牙、ジェニー、ランドスライド、そしてリン。どの方がどなたかわかります」

「あんたも帝国幹部としておれたちに言っておく事があんのかい?」
「いえ、特に」
「じゃあゲルシュタッドみてえに勝負か?」
「勝負ですか。それも面白いですが、せっかくあなた方がここまで頑張ってきたのにそれを一瞬でふいにしてしまうような野暮な真似はしたくありません」
「大した自信じゃねえかよ」
「止めておけ、コメッティーノ」とリチャードが言った。「ジノーラは……私たちを相手にしていないと思う」
「さすがはリチャード。よくおわかりですね。私はもうシニスターがどうなろうが、あなた方が帝国を消滅させようが、そんなのはどうでもいいのです」
「どうでもいい?」
「ええ、結末の見える物語は早く終わらせないと、あなた方にとってもためになりません」
「大帝を守らないのか?」
「大帝も私と同じ意見でしょう。あなた方は次のステージに進まなければなりません」
「言っている意味がよくわからんな」

 ジノーラは何事か考え込んでいるようだった。
「事態は次の段階に推移します。『予測不可能』、何と刺激的な言葉でしょうね。きっとわくわくするような出来事が待っていますよ」
「マックスウェル大公みたいな事言うね」
 リンが何気なく言うと、ジノーラはリンをじっと見つめたまま、視線をはずそうとしなかった。
「リン文月。お目にかかれて光栄です。あなたには色々と言っておきたいが、今のあなたに理解できるかどうか」
「何を?」
「とにかくこの下らない騒ぎを一刻も早く終わらせないと。落ち着いたならゆっくりと話をしましょう」
「先に行ってもいいんだね?」
「もちろんです。大帝が旧文化地区の古城でお待ちです。どうぞお進み下さい」

 
 リンたちが去った後、ジノーラはぶつぶつと呟きながら建物の中を歩き回った。
「すぐに起こるのか、いや、それではひねりがないな――いざとなれば多少手心を加えて。まあ、二十年先といった所かな」

 

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