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2 コメッティーノ対シャイアン
コメッティーノは巨大な鳥の後姿をようやく視界に捉えた。そこから更にスピードをアップさせてシャイアンの前に躍り出た。
鳥の神シャイアンは青銅色に輝く羽根を持った巨大な猛禽だった。その目には憎しみの赤い炎が宿っていた。
「……連邦議長コメッティーノではないか」
シャイアンの背中に乗ったイスドロスキスが叫んだ。
「ちょっくら、そこの鳥の神さんに用事があってね」
「ふん、時間稼ぎにわざわざ議長が登場とは愚かの極みだな」
「勘違いしちゃいねえか。連邦はおれが絶対君主って話じゃねえ。おれは戦いたい時に戦う。だからこうやって最前線に出てきてんだよ」
「ほぉ、それは結構だ。ならば名誉ある最初の犠牲者になるがよい!」
コメッティーノは先制攻撃を仕掛けるため、素早い動きで懐に飛び込もうとした。シャイアンが翼を一つ羽ばたかせると、コメッティーノは強烈な圧力を受けて後方に吹き飛ばされた。
「なかなかやるじゃねえか」
シャイアンの懐に飛び込もうとしてその度に弾き返された。同じ攻撃を繰り返して何度か目、シャイアンが羽ばたく前にコメッティーノの姿が消えた。
いつの間にかシャイアンの背後に回ったコメッティーノが、ポロキスとイスドロスキスがいる背中に乗り移ってきた。
「あっ、てめえ」
ポロキスが気付いて叫んだが、蹴り飛ばされてシャイアンの背中から落ちた。
「神を謀るとはいい度胸だな」とイスドロスキスが言った。
「わかってねえな。てめえらにとっては神でも、おれにとっちゃ神でも何でもねえ。ただのでっかい鳥だ」
コメッティーノが一撃を浴びせようとするのを見越して、イスドロスキスは自ら飛び上がり、シャイアンから離れた。
「じゃあ、シャイアンちゃん。お眠りちまちょうねえ」
コメッティーノは両手を合わせ、指をぽきぽきと鳴らした後、シャイアンの首筋に手刀を突き立てた。
「ぐぇっ、ぐえっ、ぐえっ」
シャイアンがこの世の物とは思えない叫び声を上げた。
さらに数発、首筋に手刀を打ち込むと、シャイアンはぐったりとして叫び声も上げなくなった。
「さあ、眠りな――あれ、おかしいな、こいつ。もう十分すぎるくらい急所突いてるはずだぞ。なのに何で止まらねえ」
シャイアンの背中にまたがったコメッティーノの背後でポロキスとイスドロスキスの叫ぶ声が聞こえた。
「つくづく愚か者よ。議長、動きを止めるとでも思ったか」
イスドロスキスは勝ち誇ったように笑った。
「どういう意味だ?」
「お前の言う通り、こんなものは神でも何でもない。創造主モンリュトルの意志がこもっていなければただの乗り物に過ぎんのだ。しかしこの乗り物は一度行く先を決めれば二度と止まらない」
「……なるほど。で、行先は?」
「お前らの拠り所、《七聖の座》の恒星に激突する予定にだ。まあ、せいぜいシャイアンとの旅行を楽しんでくれ」
そう言ってイスドロスキスたちは飛び去った。
「くそ」
コメッティーノは背中にまたがったままでヴィジョンを入れた。
「リン、いるか。いいか、一度しか言わねえぞ。その内にシャイアンがそっちに行く。おめえの天然拳で消滅させてくれ」
「あ、コメッティーノ。そっちもなの?」
「何が『そっちも』なんだ。おめえ、《七聖の座》にいるんだろ?」
「うん、そうだけど――」