3 リチャードとギンモンテ
リチャードは《地底の星》に滞在を続けた。星で最も明るいかすかな薄日の差しこむ部屋にミーダが迎えにきた。
「王がお呼びでやす。付いてきて下さい」
リチャードはミーダに付いて地底の町並みを歩いた。
「この町にも慣れたでしょ」
「まあな」
「……王が驚いていやしたよ。リチャードさんがあまりにもしつこいって。その熱意に負けて今からあるもんをお見せするそうでやす」
「ミラナルか」
「まあ、付いてきて下さいよ」
王の間とは反対側にある広場の端でネアナリス王が待っていた。
「センテニア殿。間もなくミラナル・リアルが完成する。見てやってはくれぬか」
「はい」
「ついてはギンモンテ博士を《エテルの都》まで送り届けてはもらえぬだろうか。やはり持たざる者にとってこの星は住みにくい。大分お具合がよろしくないようだ」
「――わかりました。博士は今どこに?」
「ミラナル・リアルの所にいる。こちらだ」
ネアナリスに案内されたのは天井の高い大きな洞窟だった。車椅子に乗った一人の小男が背を向けて指示を出していた。
「ギンモンテ博士ですか?」とリチャードが声をかけた。
「ん、君は……確かリチャード・センテニア。どうしてこんな場所に?」
「博士のお作りになられたミラナル・リアルを拝見しに」
「おお、そうか。とうとう最高傑作ができる。何しろ君たち銀河の英雄たちとの戦いのデータをたっぷり記録しているからな――あ、すまん」
「構いませんよ。で、博士はミラナル完成後、どうされるおつもりですか?」
「ミラナル完成後……考えていなかったな」
「無邪気な方だ。どうでしょう。《エテルの都》までお送りしますよ」
「ではもう少しだけ待ってくれ。二、三日後には出発できるだろう……それよりどうだ、ミラナル・リアルを見ていかないか?」
「いいですよ。どこにあるんですか?」
「こっちだ」
ギンモンテはさらに地下深くにリチャードを案内した。そこには全長五十メートルほどの鈍色に光る人型機械が佇んでいた。
「……これがミラナル・リアル」
「だな。君たちは継ぎ目を徹底的に狙った。その点は対応済みだ。しかも天然ミラナリウムは人工物に比べてさらに百倍は硬い。まあ、無敵だな――あ、すまん」
「なるほど」と言って、リチャードはおもむろに剣を抜いた。「早速、試してみましょうか?」
「……え、それはまずい」
「どうしてですか?」
「いや、そりゃ未完成だからまずい」
「わかりました。博士は根っからの学者ですね」
「何言ってるんだ。見ればわかるだろう」
「博士を都までお連れします。ネアナリス王、色々とお世話になりました」
リチャードは王の間で別れの挨拶をした。
「うむ、遠路ご苦労であった。貴殿とは今後ともうまくやっていきたいのだ。わかってくれるな」
「無論です」
「塗装をもう一層塗れば完成だ」とギンモンテ博士は上機嫌な声で伝えた。「そうしたら手筈通りに試運転してくれよ」
「博士、ありがとう」
ネアナリスはギンモンテに丁寧に礼を述べた。
「ではポートに行きましょう」
ポートではミーダが見送りのため待っていた。
「リチャードさん、本当に残念だ」
「今度会う時は敵味方だな。ミーダ、覚悟しておけよ」
リチャードが冗談めかして言った。
「リチャードさん、あっしが言っちゃいけねえんですが、ご武運をお祈りいたしやす」
「じゃあな」
シップに乗り込み、しばらくしてギンモンテが口を開いた。
「なあ、リチャード君。私はもう長くないようだよ」
「何を言うんですか。都に戻れば健康も回復しますよ」
「いや、これは私に下された天罰だ。クアレスマの口車に乗ったとはいえ、罪もない多くの人々を犠牲にしたのだ。死ぬのが当然さ」
「博士はずっとエテルの影に隠れてきた。歴史に名を残そうとしてこの研究を選ばれたのですね?」
「ああ、いつまでたっても私は『偉大なるエテルの弟子』だった。だから完成した都のラボで『ミラナリウム発見』の一報を聞いた時には飛び上がって喜んだよ。これでやっと自分もエテルの影から抜け出せる、偉大なるギンモンテ博士と讃えられる日が来るのだとね」
「そうして罪もない辺境の人々を虐殺した」
「本当にひどい事をしたと思っている。これ以上ミラナリウムが産出されては困ると思ったのだ。後でミーダに確認したが、辺境で発見されたのは偶然、《地底の星》の原石が何かのはずみであの星に漂着しただけだったらしい。取り返しのつかぬ事をした」
「――そして無敵のミラナルをこの世に残されていく。どこまでも自分勝手な方だ。必勝法を授けてくれるまでは死なせませんよ」
「安心してくれ。勝ち目がない訳じゃない」
「というと?」
「例えば、リン文月の星を消滅させるパワーがあればひとたまりもない」
「……それは固く止められているんですよ」
「ふむ、君の剣のような斬りつける攻撃ではだめだな。もっと強烈なインパクト……例えば隕石でも衝突すればなあ」
「そんな偶然――いや、一人います」
リチャードはGMMを思い浮かべ、すぐに否定した。
「やはりだめです。その人物は床に伏せっていると聞きました」
「困ったな。自分の作品の素晴らしさを見せつけつつ、最終的には破壊される、それが理想だったのだが」
「博士。ちゃんとわかってらしたんですね」
「当り前だ。バカにするな」
「ははは、私が相手をしますよ。銀河で最も硬いミラナリウムと龍の逆鱗でできた剣の硬さ比べですよ」
「うーん、困ったな」