6.6. Story 2 胎動

2 囚われのゼクト

 シップはオンディヌたちが訪れた《火山の星》のさらに先、《鳥の星》を目指して進んだ。
「アナスタシア殿は何故、兄上が《鳥の星》にいらっしゃるとお思いか?」
 ゼクトがシップを操縦しながら尋ねた。
「呼び捨てで結構ですわ。前回ゼクト様が《守りの星》に来られてから間もなく兄は《巨大な星》に向かいました。表向きはアンドレアスの救出ですが、真の目的は皆様のご活躍を確認する事、そして黒き翼の者に会うためだったと推測しています」
「黒き翼の者の目的とは?」
「出発前にも申し上げました通り、彼らは狂信的な空を翔る者至上主義者。現在の持たざる者による銀河支配を快く思っておりません。彼らは鳥の神、シャイアンの復活を願っております」
「……シャイアン?」
「はい。リーバルンが秘かに復活させたという伝説の神」
「何故、《巨大な星》で?」
「リーバルンが暮らした《守りの星》、プトラゲーニョの末裔が住む《鳥の星》、両方の星に残された文献を調べた結果、シャイアンを復活させる大事な何かがそこにあるのが判明したためでしょう」
「アナスタシア……素晴らしい。《守りの星》をお出にならぬのにそこまでの分析をされているとは」
「ありがとうございます」とアナスタシアは端正な顔をほころばせた。「兄はその時にその大事な何かを手に入れたのです」
「……」
「戻って以来、小さな皮袋を肌身離さず持ち歩いておりました。時折、その皮袋を見つめては何事かぶつぶつと呟いておりましたが、ある日を境に吹っ切れたように明るくなりました。きっと決心がついたのではないかと」
「《鳥の星》に行かれたとは限らないでしょう?」
「いえ、おそらく復活の地は聖地、ザモーラ台地」
「では早くしないとシャイアンが復活してしまう――」
「はい。それだけは避けないといけませんが、兄が黒き翼を説得してくれる、そう思いたい自分もいるのです」
「しかし黒き翼が力づくでパパーヌ殿からその大事なものを奪ってしまえば?」
「急ぎましょう。ゼクト様」

 
 岩だらけの星が見えた。
「直接、その聖地とやらに向かいましょう」
「それがいいと思います」
 シップは垂れ込める灰色の雲の下、ザモーラ台地の端に到着した。
「まだシャイアンは復活していないようだ。アナスタシア、君はここにいてくれ。自分が様子を見てこよう」
「はい、ゼクト様。お気をつけて」
「アナスタシア」とゼクトが途中で振り返った。「シップを操縦できるか。三十分経っても戻らなかったら《巨大な星》まで逃げて助けを求めるんだ。頼むぞ」

 
 ゼクトは慎重にザモーラ台地の中心に向かって歩いた。やがて祭壇が見えたが人の姿はなかった。
 祭壇を覗き込んでいると、不意に背後から声がかかった。
「おや、誰かと思えば銀河の英雄さんじゃねえか」
 振り向くとそこには黒い翼のポロキスを中心にして数人が槍を携えていた。
「シャイアンは蘇ったか?」
「てめえ、なぜそれを……まあいい。てめえの技は空を翔る者とは相性が悪そうだしな。この人数だとまず勝ち目はないぜ」
「勝ち目はなくとも戦わねばならん」と言って、ゼクトが腰を落とした。
「まあ、待てよ。荒っぽい真似に出たら人質の命はなくなるぜ」
「……人質?」
「てめえらの仲良し、腰抜けパパーヌさんだよ」
「貴様ら」
「な、パパーヌに死なれたら、てめえらのくそみてえな銀河支配とやらに支障が出るだろ――おい、野郎ども、こいつを縛り上げろ」
「お前は」
 抵抗を止めたゼクトは縛られながら笑顔を見せた。
「ずいぶん下品な言葉遣いだな。聞いてると耳が腐りそうだよ」
「てめえ……岩牢にぶち込んでおけ」

 
 ゼクトは手足を縛られたままザモーラの奥にある岩造りの牢に放り込まれた。
「誰だ?」
 牢の奥から落ち着いた声が聞こえた。
「パパーヌか」
「その声はゼクトだな。何故、主がここにいる?」
「アナスタシアが」とゼクトは声を落とした。「ここまで案内してくれた」
「何、妹が――妹は無事か?」
「心配するな。今頃は《巨大な星》に向けて出発しているはずだ」
「あのお転婆め」
「いや、彼女は聡明で行動力に溢れているぞ。頑固なだけの誰かとは大違いだ」
「……ふん、何とでも言え。それよりゼクト、急がないとシャイアンが復活する」
「やはりそうか。復活するとどうなる?」
「そんな事知るか。ただリーバルンが封印したくらいだからな」
「アナスタシアに期待するしかないか」

 

先頭に戻る