6.6. Story 1 前兆

3 ゼクトとアナスタシア

「ここを右に抜けて、次は下、そのまままっすぐで上……よし、完璧だ」
 ゼクトは《守りの星》の隕石を苦もなくシップで越えた。ポートに着くと以前と同様、数人の『空を翔る者』が飛んできた。
「……お前は確か、銀河連邦のゼクト将軍だな」とゼクトの顔を覚えていた一人が言った。「今日は何用だ?」
「いや、特に用事がある訳ではないのだが、パパーヌ殿に《巨大な星》での協力の礼を言いたくてな。リチャードとリンが命を救われたそうだ」
「はて、そのような事があったか。残念ながらパパーヌ様は外出されておる。だがせっかく礼を言いに来た者を無下に帰すのも良くないし、代わりにアナスタシア様に会っていかれるがよい――さあ、案内しよう」

 
 ゼクトは以前と同じ黒い大きな木の生えた森に連れて行かれた。すぐにアナスタシアが白い翼を広げて舞い降りた。
「これはゼクト様。ようこそおいで下さいました」
「アナスタシア殿。ご無沙汰しております。今日はパパーヌ殿に礼を言いたくて立ち寄ったのです」
「それは残念でしたね。兄は数日前から外出しております」
「《巨大な星》からはお戻りになったんですよね?」
「ええ、行く先も告げずに出かけたのですが、アンドレアスを連れて戻ったので、《巨大な星》だとわかりました。ですがそこでリチャード様やリン様にお会いしていたなんて」
「私も後で聞いてびっくりしました。アンドレアスを助けるためだけならリチャードやリンまで助ける必要などなかった。やはりパパーヌ殿は義に厚い方だと感心いたしました――かつて父と自分を助けてくれたように」
「ありがとうございます。でも兄は戻ると、ろくに話もしなくなり、物思いに耽るようになったのです。そして数日前、突然に『出かけてくる』と言い残して――きっとあの星に行ったのです」
「あの星とは?」
「……ゼクト様、他人のあなたに申し上げるべき事ではないのですが……私、心配なのです。兄は《鳥の星》、黒き翼を持つ者たちの所に行ったのに違いありません」
「黒き翼?」
「ええ、空を翔る者の覇権奪還を強硬に主張する方たちですが、兄と意見が合うはずがありません。ああ見えて兄は持たざる者と共存して生きる道を模索していますが、黒き翼はそうではありません。持たざる者を排除して空を翔る者による銀河の支配を企んでいます」
「……」
「しばらくは兄が帰って来ないような気がするのです」
「その黒き翼に身柄を拘束された……という意味ですか?」
「ええ、きっと同じ空を翔る者同士ですから殺しはしないでしょうが」

「……わかりました。自分が《鳥の星》に行きましょう。もしもパパーヌ殿が窮地に陥っているのであれば恩返しをせねばなりません」
「でもゼクト様は連邦の将軍のお仕事が」
「大丈夫です。連邦には自分以外にも優れた者がたくさんおります。それに最近、大勢の兵を率いるのが性に合っていないと思っていたのです。まあ、リチャードやリンを見ているからかもしれませんが――とにかく任せて下さい」
「……でしたら、私も一緒に参ります」
「――は、何をおっしゃるのですか。危険だと言われたのは貴女ではありませんか。その危険な場所に自ら赴こうというのは感心しませんな」
「いえ、私も空を翔る者の指導者の妹です。兄がいなければ私が人々を率いていかねばなりません。それに私がいた方が黒き翼も安心するとは思いませんか?」
「そう言われればそうですが――わかりました。一緒に参りましょう。ただこれだけは約束して下さい。絶対に危険な真似はしないと。いいですか?」
「はい」

 

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