6.5. Story 3 ミラナリウム

2 ミラナル2号

 コメッティーノは頭をくしゃくしゃとかき回した。
「ああ、何だって会議、会議ばっかりなんだよ。もういやだ」
「そう言うな」とイマームがコメッティーノを慰めた。「こっちも決められる事は決めているが、どうしてもお前の判断を仰がなければならないケースがある。お前は何ヶ月もダレンを離れていた。仕方ないだろう」
「後は何が残ってる」
「まだ沢山あるぞ。《歌の星》の連邦加盟審査、《沼の星》、《守りの星》との友好条約締結、それにリチャードから連絡のあった《エテルの都》の件――」
「わかったよ。わかったから、ちょっと休憩しようぜ。夜まで散会な」
 コメッティーノは府庁舎を出て連邦軍本部に向かった。

 
「あーあ、コマンドの方が性に合ってるかもしんねえなあ」
 コメッティーノは整備中の一隻のシップの機体の上で寝転がって独り言を言った。

「おい、そこに居られると発進できんのだが」
 ゼクトの声だった。
「どこ行くんだよ?」
 コメッティーノは上半身を起こし尋ねた。
「《七聖の座》の視察に行く。さあ、そこを退いてくれ。コメッティーノ議長」
「おれも行くぜ」
「何言ってるんだ、お前は。決めなきゃならん課題が山積みでそんな事している暇などないだろう」
「いいんだよ、イマームたちがちゃんとやってんだから。それに夜までは休憩だ。早く出発しようぜ」
「まるで子供だ。仕方ない。行くか」

 
 コメッティーノはゼクトのシップに同乗して宇宙空間に飛び出した。
「しっかし定期路線航路を一本はずれると静かだな」
「銀河連邦のお膝元で騒ぎを起こそうなどという骨のある海賊もいないので、至って安全さ」
「《七聖の座》も元通りに――おい、向こうから何か来たぜ」
「本当だな。速度が速すぎる。警告しよう」
 ゼクトは警告信号を送ったが反応は返ってこなかった。
「……見ろよ、シップじゃねえぞ、ありゃ」
「大型の人型機械、多分、戦闘用だな」
「《鉱山の星》を襲って水牙に破壊された奴のお仲間かい?」
「あんな大きなサイズとは聞いていない。まあいい、どちらにせよ停止させる」

 
 ゼクトはシップの外に出て『真空剣』を放った。機械は大きく後方に跳ね飛ばされた後、再び元の進路に戻って静止した。ゼクトを敵として認識したようだった。
「おい、コメッティーノ。映像を記録して大至急リチャードに確認してくれ。あの硬さはどうもお仲間くさい」
「よぉ、ゼクト」と言いながら、コメッティーノもシップの外に出てきた。「おれと代わっちゃくれねえか。おれが戦うからおめえが記録する。な、体がなまってんだよ」
「こんな時に何を言い出すかと思えば――好きにしろ」
 ゼクトは後方に退き、コメッティーノが機械に対峙した。

 
「よっしゃ、すぐに楽にしてやっからな」
 コメッティーノは機械に向かって突進した。猛スピードでぐるぐると相手の周りを回りながら急所を探した。
「こういう奴は大抵ここが弱点なんだよ」と言って脳天部分に高速の突きを見舞った。「何だこいつ、硬えぞ」
「コメッティーノ、助太刀が必要か?」
 映像を送信し終わったゼクトが声をかけた。
「要らねえよ。おれの動きについていけないみてえだから時間の問題さ」
 さらに急所と思しきみぞおちやこめかみに突きを撃ち込んだが、全く効き目がなかった。

「こうなったら中から壊すしかねえか」
 コメッティーノは機械のスローなパンチを避け、再びぐるぐると周りを回った。
「ここだ」
 狙いをつけて機械の喉元に突きを入れると、それまでと違う「べこん」という感じの音が聞こえた。
「もういっちょ」
 目にも止まらぬ連続の突きを機械の喉元に叩き込んだ。すると機械の首がぐらぐらと揺れ出し、しまいには後方に「がくん」とのけぞった。首が乗っていた場所からはむき出しの部品が覗いていた。

「はい、以上」
 コメッティーノがむき出しの首に止めの突きを見舞うと機械は動きを止めた。
「おい、ゼクト。終わったぞ。そっちはどうだ?」
「リチャードからは『多分一緒』と連絡があった。とすると《エテルの都》からのお客さんか?」
「なめた真似しやがって。売られたケンカなら買ってやろうじゃねえか、なあ」と言ってから機械を見た。「やべ、こいつ、自爆する」

 
「あーあ、宇宙空間を汚しやがって」
 ばらばらになった機械を見ながらコメッティーノが言った。
「イマームに緊急会議の開催動議を出しておいた。さあ、ダレンに戻ろう」
「おい、ゼクト。段取りを間違えねえでくれよな」
「……何だ、段取りとは?」
「表敬訪問はおれが行く。おめえは外で待機して合図があったら突入だかんな」
「行くかどうかも決まっていないのにもう突入作戦の話か。気が早いな」
「当たり前だ。リチャードたちが動きやすいようにおれ自らが犠牲を払おうって言ってるんだ」
「お前、戦いたいだけだろ?」
「まあな」

 
「ミラナル2号、自爆しました」
「うむ……やはり運動性能と継ぎ目の問題か。ゼクトのデータは取れたか?」
「はい。最初の一発だけですが記録済みです」
「よし、後はミラナル3号対リンだな。面白い戦いになりそうだ」

 

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