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20XX.6.27 蒲田大吾
頭が割れるように痛かった。昨夜はどうやって家まで帰ったのか覚えていない。ベッドから起き上がり、ぼぉっとしている内に大変な事に気づいた。
ここはどこだ、落ち着け、落ち着け、きれいに整頓されたワンルームの部屋、猫がぼくを珍しそうに見てる……ここは美夜の部屋か。
時計を見ると午後2時、美夜は仕事に行っているようだ。テーブルの上に「7時には帰ります 美夜」という書置きとラップのかかったハムサラダ、トーストしていない食パンとバター、それに空のコーヒーカップが置いてあった。
じたばたしても仕方ない、美夜の帰りを待とう、そう考え、パンをトースターに入れ、ポットの冷めたコーヒーをカップに注ぎ、遅い朝食を取った。
すっかりぼくになついた猫と遊んでいると美夜が帰宅した。
「ただいま……ミーシュカがあたし以外の人間になついている所なんて初めて見た」
ミーシュカっていうんだ。
「そう、小熊のミーシカって知ってる?小さい頃、大好きだったんだけど、名前がうまく言えなくてミーシュカ、ミーシュカって。だからミーシュカ」
美夜のそういう話初めて聞くね、と言うと、急に表情が固くなった。
「そんなのどうだっていいでしょ。それより西浦さんから電話があったの。伝えてくれって。いい。元警視庁の蒲田大吾にあなたの件を連絡しておいた。6月30日午後5時Oホテルのロビーに行ってくれ」
蒲田大吾ってあの蒲田大吾――
「そうよ。元警視庁、今は著名な犯罪研究家。ネットで調べてみなさいよ」
わかった、期待できそうだね――
「そうね、もしかすると昨日言っていたあなたの信じるべきものを示してくれるんじゃないかしら……それはそうとお腹空いてるでしょ。駅まで送ってくから、何か食べてかない?」
美夜と外に出た。
ここはどこかな――
「墨田区Rよ。いい町でしょ」
一軒の洋食屋の前で「ここでいいよね」と言い、中に入っていった。
店の主人らしき人が「美夜ちゃん、男連れなんて初めてだね」と声をかけた。
美夜は困ったような照れたような顔をして「止してくださいよ……どれだけ一人ぼっちなんだか、ねえ、ジウラン」と言ってから笑った。
そうか、美夜は自分の事を話さないが、彼女も一人なんだ。でもこの笑顔もぼくが『事実の世界』を探り当てればもう見る事ができなくなるのだろうか。