6.3. Story 3 火炎陣

2 『火の君』

 連邦の出張所で最後のブリーフィングが行われた。
 コメッティーノが「マップ」を見せながら説明を始めた。
「いいか。まず最終防衛ラインはここ。リチャード、水牙、オンディヌ、シルフィ、そして、『薔薇騎士団』はこのラインで迎え撃つ形を見せておく。で、実際にはおれとリンで船団に突撃する。どういう陣立てで神火がやってくるかは水牙に説明してもらおう」
「神火の船団は、『火炎陣』と呼ばれる編隊で来るはずだ。この陣は中心に神火、ファンボデレン級と同じくらいの巨大艦だ。ファンボデレン級は他に二艦、前陣の烈火と後陣の業火。神火の横には妖火と陰火、前には大火、後には猛火。そしてそれぞれを守る形で将兵のシップが並ぶ。百隻近いシップで攻め込んでくる」
「そりゃあすげえな。で、どっから崩せばいいんだい?」

「まともに正面からぶつかれば飲み込まれるだけだ。如何にコメッティーノとリンが陣を崩せるか。コメッティーノが前後左右に飛び回り、撹乱して妖火と陰火を釣り出す。リンは背後、業火のファンボデレンではなく、猛火を動けなくしてくれ。『火炎陣』はどこかが欠落すればそれを埋めるために形を変えるが、徐々に中心の神火のシップの警護を剥がしていけば、やがては神火が出てくる。リチャードは必要に応じて前方にせり出して相手を挑発してほしい。某は後方から説得に当たる」
「まあ、難しそうだけどやってみっか。ところでリンはシップに乗ったままで自然や天然拳を使えるか?」
「自然はシップも一緒に気配を消せるだろうけど、天然拳は多分、シップの外に出ないとだめ。コメッティーノはどうやって戦うの?」
「お前もおれと一緒にバイクで暴れた方がいいな。自然を使って、適当に逃げ回りながら相手を仕留めてってくれ」
「後はゼクトが帝国に見つからず、抜け出せるかどうかだな」とリチャードが言った。
「その通りだ。うまいタイミングでゼクトが来てくれりゃ、それで終わりだ」

 
「さあて、おれたちは行くぜ」
 最終防衛ラインに到着するとコメッティーノが言った。

 二人はソルバイクで宇宙空間を進んだ。遥か前方にぽつぽつと点のようなものが見え、近づくにつれ、それが大船団だとわかった。
「何もあんな大人数で攻めなくても良さそうなものを」
「そこが神火のおつむの弱い所だ。奴は目先のこの戦いに勝つ事しか考えてねえ。そんなんで勝っても帝国にひねりつぶされちまうのによ」
「それに比べるとコメッティーノはスマートだね」
「まあな、連邦再興のためにはどっちも無傷で、しかも勝たなきゃなんねえ。まあ、勝算は五分五分、いや二分ってとこか。おれやおめえみたいなスーパーな奴がいねえと成り立たない無茶な作戦だ――じゃあ、突っ込むぜ。一発頭からどーんと行くから、後方まで行って、ぱーっとやってくれ。おれは前の方で遊んでるわ」

 
 コメッティーノは目にも止まらぬスピードで大船団に向かった。前陣の烈火の赤いシップが近づいた。バイクは烈火のシップの鼻先まで突っ込むと急旋回をして上方に向かい、そこから一気に後方にダッシュした。巨大なシップはどこまで走っても船尾が見えないほどの大きさだった。
「ねえ、コメッティーノ」と後を行くリンが自然を発動させたままで言った。
「何だ?」
「一発、ぶっ放してもいい?」
「もうちょい待ってろ」

 ようやく烈火のシップを越え、さらに船団の後方に進むと多くの護衛艦に守られた一角があった。
「あの中に神火のシップがいるはずだ。どうにかあいつを引きずり出さねえとな――リン、一発打てるか?」
「軽くならバイクの上からでも反動もないと思うよ。やってみようか?」
「いや、やっぱり止めよう。お前の姿がばれたら作戦ぶち壊しだ。さあ、かき回すぜ」
 コメッティーノと別れ、気配を消したままのリンのバイクは最後方、業火の赤いシップにたどり着いた。

 
 自然を発動させたまま、シップの横で停まった。
(まずはこのへんのシップに脱落してもらおう)
 自然を解放し、天然拳の構えに入り、数台のシップに軽く討ち込んだ。シップは突然停止して、船団の右後方部に混乱が起こった。

 再び自然をまとうと前方に移動して、神火の後方にいたはずの猛火の中型シップを発見した。
(しめた。騒ぎを確認しにわざわざ来てくれた)
 猛火のシップに近づき、天然拳を右の翼に向かって放った。猛火のシップは制御を失い、きりもみ状態を起こした後、停止した。

 
「よし、いいぞ、リン。こっちもやるか」
 コメッティーノが縦横無尽にシップの間を駆け抜けながら、すれ違う瞬間に相手のシップのボルトを何本かはずしていった。シップは停止し、船団の右前方部にも混乱が起こった。

 
 神火の大船団はようやく自分たちが何者かの攻撃に晒されているのに気付いたようだった。船団の左側に位置していたシップが右側に移動し体制を組み直し、神火の左に位置していた妖火の一団が猛火のいた位置に移動した。

 見えない敵の攻撃は止まなかった。混乱を収拾しようと躍起になる船団の右側のシップをさらに数隻、航行停止に陥らせた。
 敵の居場所を特定するためか、大船団から十隻ほどの中型シップが前方と右方に散開を始めた。コメッティーノは群れからはずれたこれらのシップを確実に仕留めていった。

 リンは妖火のシップに狙いを定めた。自然のまま、シップに取り付くと後方の機関部と思われる部分に天然拳を打ち込み、シップを停止させた。

 
 再び神火は陣形を変えた。前陣の烈火、後詰の業火の大型シップはそのままに、神火の護衛が左に大火、右に陰火という編成に変わった。

「なかなか崩れねえなあ」
 コメッティーノは独り言を言ってからヴィジョンでリチャードを呼び出した。

 最終防衛線から猛スピードでジルベスター号が近づいた。神火の船団と距離を取って対峙すると、大火の率いる一団がジルベスター号に向かって編隊を離れた。
 神火の近くに位置する陰火の一団はリンたちから捕捉不可能な攻撃を受け、徐々に神火の護衛が緩み出した。

 
 遂に神火の真紅の大型シップがその姿を見せた。それとほぼ同時に船団のはるか右方に別の船団が出現した。ゼクトの率いる連邦軍だった。
 連邦軍の本体の接近に気付いた神火の船団は右に旋回を行おうと試みた。烈火と業火はスムースに旋回を行ったが、神火とその周辺のシップはリンとコメッティーノの攻撃を受けて互いを守るように距離を詰めていたため、旋回どころではなくなっていた。

 仕方なく神火の大型シップは一旦護衛するシップを遠くに離し、他のシップを巻き込まない安全な位置に移動して旋回を試みた。
 そこに遠く離れたゼクトのシップから真空剣が飛んできた。一発、二発、三発、やがて神火のシップから煙が上がり、宇宙空間の闇に消えていった。
 残された船団は混乱に陥ったが、すぐに前陣の烈火が体制を立て直し、連邦軍に対峙しようとした。

 
 後方から接近したクラウド・シップから水牙の声が響き渡った。
「《将の星》の民よ、烈火よ。もう戦いは終わりにしないか。長老会議でも連邦に従うと決まったではないか」
 烈火の船団の進軍が止まった。リチャードを追っていた大火の一団も戻った。
「水牙か。わかった。元々兄者に言われての戦い、兄者がこうなってしまったのでは、長老の決定に従うしかあるまい」

 これを聞いて大火のシップから声が響いた。
「冗談じゃねえ。兄貴たち、いつからそんな腰抜けになった。おれは大兄者に付いていくぜ」
 大火のシップは数隻のシップを引き連れて宇宙空間の闇の中に神火を探しに行った。

「業火、猛火、妖火、陰火。お前たちはどうだ、長老に逆らってまで戦いを続けるか?」
 答えがなかった。しばらくして烈火の声がした。
「水牙、我々は連邦に帰順しよう。差し当たってこのまま、《将の星》に引き返すが構わんか?」
「うむ、そうしてくれ。某もすぐに戻るが帝国との再度の戦いに備えて前線を守ってほしい」

 コメッティーノの声が響き渡った。
「ゼクト、ご苦労さん。すぐに《沼の星》に戻ってくれ。帝国侵攻に備えといてくれよ」

 

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 Story 4 一つ目のシニスター

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