6.2. Story 4 連邦府ダレン

4 連邦再興宣言

 中央広場に集まった人間は一万人を越えようとしていた。連邦本部のバルコニーでイマームが話し始めた。
「みんな、聞いて欲しい。我々は今日、かつての慈愛に満ち溢れていた連邦と笑顔の絶えなかった連邦府ダレンを取り戻した。これからは帝国や王国の影に怯える事なく、『銀河の叡智』の復活を目指して連邦を発展させようではないか」
 歓声が上がり、イマームは話を続けた。
「今回の勝利は皆で勝ち取ったものだが、この者たちの力なくしては達成できなかった。《鉄の星》皇子リチャード・センテニア、《青の星》ソルジャー、リン・文月、そしてトリチェリ議長の子息コメッティーノ」
 歓声がさらに大きくなった。
「私は提案したい。連邦を復興させるのに最もふさわしい新議長、それはコメッティーノだ」

 熱狂に迎えられコメッティーノがバルコニー中央に立った。
「いよぉ、元気か。おれはこんなだから議長にふさわしい言葉使いとかはこれから勉強するようにする。面倒くさいのも苦手なんで実際の仕事はイマーム、ノノヤマに仕切ってもらう。そしておれが間違っていたらオヤジのように叱ってくれるカーリア王、あんたには昔みたいに顧問になってもらいたい」
 カーリア王がコメッティーノの左手、イマームとノノヤマが右手を持ち、一斉に手を上げた。
「軍務についてはゼクトが最高責任者だ。それ以外は考えられない」
 ダメージから回復したゼクトが中央に出てコメッティーノと握手を交わした。
「リチャード・センテニア、リン、シルフィ、こいつらにも手伝ってもらいたいんだが、まだやるべき事があるから無理強いはできねえ。だから連邦のコマンド、おれ直属の特殊部隊――まあ、平たく言えば仲間だな、になってもらう」

 リチャード、リン、シルフィが姿を現すと群集は足を踏み鳴らしながら歓声を上げた。このまま夜通しでのお祭り騒ぎになだれ込む勢いだった。
「おれからは以上だ。あとはノノヤマから話があると思う――みんな、本当に待たせちまってごめんな」
 コメッティーノは舞台を降りて言った。
「ふう、どうもこういうのは苦手だ。リン、おめえらのインプリントは明日やってやっからな。加盟の方はやっぱ色々調査が必要みてえだから、多分ノノヤマが《青の星》まで同行して視察すんだろよ。まあ、今日はこのまま祭りを楽しめよ」

 
 夜になると花火が上がり、祭りは最高潮を迎えた。リンたちは本部のバルコニーから花火を見た。
 そこに連邦府治安維持部隊の人間が現れ、コメッティーノに耳打ちした。
「ああ……そうか、そのままにしておけ。すぐに行く……いいか、誰にも言うんじゃねえぞ」
「どうしたの、コメッティーノ?」とリンが尋ねた。
「今度はロリアンとセムが殺された」と言って、コメッティーノは爪を噛んだ。

 
 リン、リチャード、コメッティーノ、ゼクトは現場に到着して留置場の看守に状況を聞いた。
「はい、誰も入ってはいませんし、誰も出ていっておりません」
 房の中ではロリアンもセムも背中から刃物で一突きされて事切れていた。
「ちきしょう。トポノフといい、こいつらといい、暗殺者がこの星で大手を振って歩いてるってか。しかもそいつは――リン、おめえみてえに気配のない奴かもしれねえ」
「……心当たりがない訳じゃないけど……それじゃあ、話の辻褄が合わないし」
「何ぶつぶつ言ってんだよ」
「うん、将軍の喉は鎌みたいな刃で切り裂かれてたのにロリアンとセムはナイフみたいなもので刺されてる。暗殺者って自分の得物で仕留めるものじゃないのかな」
「するってえと二人いるのか。冗談じゃねえぞ。おい。リン、心当たりっての言ってみな」
「あ、え、うーん――」
 リンが口を開きかけた時、今度は府庁舎の警備の人間が飛び込んできた。
「湖の上空に不審なシップが」

 
 府庁舎の上階に移動して湖の見える場所に出ると、上空には古めかしい黒い色のシップが浮かんでいた。
 リンたちの姿を認めるとシップから声が響き渡った。

「これはこれは。私はルナティカ、王国のルナティカと申します。以後お見知りおきを」
「王国だと。てめえ、何しに来た」
「違いますよ。これから帰るのです。ロリアンたちを操って連邦を解体させる、もう一歩でしたが、あなた方が連邦を生き返らせた。なので一旦、王国に帰還するのです」
「バカ野郎、そうはさせるか」
 コメッティーノが窓から飛び出そうとするのをリチャードが止めた。
「止めておけ、コメッティーノ」
「さすがはリチャードさん。ここで私を殺したならば王国は連邦に宣戦布告、連邦は帝国と王国に完全に挟まれてしまいますよ」
「ちっ、確かに帝国と王国両方を敵に回すのは自殺行為だ――いいぜ、帰ればいいだろう」
「ちょっと待ってよ」とリンが口をはさんだ。「ロリアンもセムもトポノフさんも殺したの?」
「リン君。あなたを発見できたのは大変な収穫でした。ご質問の件ですが、ロリアンとセムは用済みなので殺しました。あなた方とゼクト将軍を仲違いさせようと考えてトポノフ将軍にも手をかけたのですが、さすがに付け焼刃でしたね」
「ふーん、そうかなあ」
「何か不明な点でも?」

「そういう事にしておくよ。地下にあったもう一つのボタンは?」
「おい、リン。それは何だ?」
 リチャードとコメッティーノが一斉に声を上げた。
「勘が鋭いですな。その通り、地下のもう一つのボタンは私の隠れ家への抜け道です。あの時、こちらのボタンを押すのではないかと中でひやひやしましたよ」
「隠れてロリアンたちを操っていた訳か。ダッハはもう誰かに術をかけられているとシルフィが言っていたが、お前だったか」とリチャードが言った。
「色々な意味で危機一髪でしたよ。私は帰りますが、次は王国領でお会いする事になりますかな、それとも《青の星》でお会いしますか。ははは、冗談ですよ。ではごきげんよう」
 ルナティカのシップは夜空にすーっと消えていった。

 
 リンたちは花火の上がるバルコニーに戻った。
「何だよ、リン。心当たりってあいつだったのか?」
「え、いや、うーん」
「まあ、何にせよ王国との関係が緊張するのは間違いないな。帝国と王国は《化石の星》の付近で対峙中、連邦と帝国は《沼の星》付近で対峙中、これで連邦と王国が開戦となると――冗談じゃなく《青の星》付近になるな」
「え、そんなのだめだよ。何としても避けなきゃ。戦ったらひとたまりもないんだから、僕の星は」
「まあ、今日は楽しんで、明日から作戦考えようぜ、な」

 

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