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20XX.6.10 転機
この前会った時に携帯の番号を伝えていた中原さんから連絡が入った。「また遊びに来ませんか」というものだ。ちょうど昨日チャプター1を読み終えたところだったので、まとめと登場人物リストを持ってすぐにM町の佐倉邸に向かった。
甘いものでも、と途中でカステラを買って佐倉邸に向かうと、中原さんはこの間と同じように紅茶を入れてくれた。ぼくは早速チャプター1のまとめと人物リストを見せた。
中原さんは「ちょっと失礼」と言って老眼鏡を取り出し、じっくりと目を通した後、また「ちょっと失礼」と言って胸元の万年筆を取り出し、人物リストの名前の左に○を付け始めた。
蒲田 大吾 佐倉 沙耶香 佐倉 真由美 若林 静江 重森 二郎 中原 定身 西浦 治
「この方たちにはお会いした、あるいは真由美様からお聞きした事のある名前、つまりは実在する方たちでしょうね。これだけの方が実在するというのは不思議な話です」と中原さんは柔らかなバリトンボイスで淡々と告げた。
でも真由美さんは沙耶香さんを生むとすぐに、と言いかけると「それは虚構ですよ、ジウランさん」と答えてから、次に名前の左に△を付け出した。
須良 大都 糸瀬 優 文月 源蔵 文月 凛太郎 リチャード センテニア オンディヌ シルフィ マリス ロック ブライトピア
「この間お伝えした私の夢に出てくる方たちです」
あっけに取られて何も言えなかった。
「私と同じような経験をしている方は他にもいらっしゃるかもしれませんね。お会いしてみたらいかがです。西浦様や蒲田様は警察の方ですから伝さえあれば会って下さるでしょう。重森様、文月様は真由美様や静江様からお聞きしただけの名前ですのでどこにいらっしゃるやら。静江様にもとんとご無沙汰しておりますし」
中原さんはぼくがため息をつくのを見て慌てて付け加えた。
「いや、こんな事ではいけませんな、もっと明るい可能性がないと――そうそう、この方を忘れてはいけません」
中原さんは饒舌だった。中原さんはリストの一番下に達筆で一人の名前を書き加えた。
神代 美夜
「この方は……はて、いつだったか、何のご用件だったかも覚えておりません。連絡先も存じ上げませんので、どこで何をしていらっしゃるお方か手がかりがありませんが、お会いできれば色々と参考になるのではないでしょうか」
ありがとうございます――今日はぼくの方から中原さんの手を握りしめた。相変わらず冷たい手だ。何だか物事が大きく進展するような気がする。じいちゃん、もしかするとぼくはあっという間に事実を解明しちまうかもよ。