6.1. Story 8 悪魔の子

2 地下街の惨劇

 

惑星ツアー

 8月16日朝、『都鳥』に蒲田大吾がいた。彼の前には様々な種類の新聞が広げられていたが、どの紙面も庁舎を爆破される大失態を演じた警察をなじる論調だった。

「リチャードさん、もう限界です。僕の手には負えません。どうすればいいでしょう?」
「わかった、心配するな」
 リチャードは静かに蒲田を見つめた。
「お前の上司だけでいいか?」
「……西浦に頼んで、できる限り多くの上層部を集めます」
「昼過ぎには雨になるらしいのでその前がいいだろう。午前11時に日比谷公園の野外ステージに集まってくれ」
「わかりました。ところで文月くんは?」
「ああ、今、お休み中だ。11時には連れて行くから」

 
 日比谷公園の野外音楽堂ステージに蒲田大吾と上司の西浦治、そして警視庁、警察庁のお偉方が勢揃いした。
「蒲田君。本当に大丈夫かな。ただでさえ昨日の一件で皆、ピリピリしてるからさ」
 タオルでしきりに汗を拭う西浦が耳打ちした。
「大丈夫です、西浦さん。あの人は信頼できます」
「しかし、もうそろそろ11時だ。園内に配置した人間たちからも報告がないし」
「地上からは来ませんよ――あ、あれだ、どうやら到着したようです」
 蒲田が指差す先、空中からリチャード、リン、オンディヌ、シルフィが降りてきた。

 
 ステージに降り立ったリチャードが西浦たちに向かって自己紹介をした。
「私の名はリチャード・センテニア、《鉄の星》の人間です。隣がオンディヌ、シルフィ、そして、この星のソルジャー、リンです」

 あっけにとられる西浦たちの前でリチャードはこれまでの様々な事件の経緯を話した。
 リチャードの長い話が終わると、沈黙を振り払うかのように西浦が口を開いた。

 
「何から質問すればいいんだか、その何だ、大体《鉄の星》とかヴァニティ何とかとか、それはどこにあるんだい?」
 オンディヌは軽く頷くと、右腕を前に出し「マップ、ギャラクシー」と声をかけ、全員の目の前の空間、野音のステージいっぱいに銀河系の立体図を出した。
「ここが今私達のいる《青の星》。あなたたちの地球です」
 オンディヌが銀河系の左端の方を指差すと、そこが青く点滅した。
「ここが銀河連邦府」
 銀河全体から見れば地球からさほど遠くない位置を指差すと、やはりそこが青く点滅した。
「ここが《巨大な星》で、ここがヴァニティポリスのある《虚栄の星》」
 銀河全体に次々に青く点滅する点が現れていった。

 銀河の俯瞰 (別ウインドウが開きます)

 
「現在の帝国の領土はこの範囲」
 今度は赤い縞模様が点滅を始めた。
「ここが王国、そしてこれがわずかに残された連邦の領土です」

 銀河の俯瞰 (別ウインドウが開きます)

 
「地球は、地球は一体どうなっているんだね?」
 西浦の隣のモールの付いた制服を着た偉そうな人間が尋ねた。
「この星はどこにも属していません。帝国、王国、連邦が争っているとはいえ、銀河系全体から見れば四分の一程度の範囲を巡っての事です。残り四分の三はどこにも属していません」

「帝国がこんなちっぽけな星を征服したとしても何の意味もないじゃないか」
「おっしゃる通り。この星が狙われている理由は大帝がこの星出身であるという事実だけに依るものと思われます」
「それで君、これからも大事件が起こるとでもいうのかね?」
 さらに西浦の隣の背広姿の初老の男が尋ねた。
「ええ、24日まで。その間に私とそこにいるリンが倒れればこの星はそれで終わりです」

「我々、地球人はどうなる?」
「この星の文明のレベルからすると、おそらく皆さん、肉体的な労働力の供給元と言いたいのですが、肉体的にもひ弱ときていますから、まあ、せいぜい奴隷的な待遇でしょうね」
「我々のレベルはそんなに低いのか?」
 リチャードは黙って頷いた。

「大帝と話し合いはできないのかね?」
 集まった人間の中で一番偉そうな白髪交じりの男が質問した。
「大帝と話はできるかもしれませんが、現在、この星に来ている物騒な奴らとは無理です。何しろ面白半分で爆弾を投げて回るような奴らですよ」
「む、確かに我々に赤っ恥をかかせるような奴らと話し合いなどする気はない」
「いいんですか。相手は姿なき爆弾魔です。そんな事言ってる間に、職場だけでなく、この島も簡単に滅ぼしますよ」

「……ではどうすればいいんだ」
「言ったでしょう。戦えるのは私とリンだけです。私たちに頼るしかありません。それと、そこにいる西浦さんと蒲田さんの協力が不可欠です。お二人が快適に働けるようにして下されば結構です」
「……」
「24日までこの星を守りぬくしかない、賽はすでに投げられたのです」

 
「――ところで皆さん、銀河の広さを体験してみませんか?」
 リチャードはその場の淀んだ空気を振り払うように口を開いたが、集まった一同はきょとんとするだけだった。
「悩んだって皆さんには人々をこれ以上不安に陥れないようにするくらいしかできません。皆さんには他の星と交わる事の良い面も知っておいて欲しいのです。さあ、シップに乗りましょう」

 いつの間にかジルベスター号が頭上に迫っていた。
「私とリンが皆さんをシップまで運びますのでつかまって下さい」
「その、文月くんは本当に地球人かい?」と西浦がリンに尋ねた。
「ええ、そうです。皆が僕みたいならいいんですけどね」

 
 全員がシップに乗り込んでからおよそ二時間後、シップは再び日比谷公園上空に姿を現した。
 地上に降りた西浦もお偉方たちも皆一様に興奮の面持ちに変わっていた。

「あれが、宇宙か――」
「皆さんはこの星で初めて土星まで行った人間になりますね」
「シップは何故、あんなに速く進めるんですか?」とやはり興奮した面持ちの蒲田が尋ねた。 
「ダークエナジー航法という発見のおかげです。この宇宙のダークエナジーを活用する事に成功したと言ってもピンとこないでしょうが。さらにもう一つ、推力の活用があります。適性が高い者ほど力も高い、つまりシップを速く操縦する事が可能になるのです」

「リチャード君」と警察庁のお偉方が上機嫌で言った。「関係省庁とも協議の上、可及的速やかに対応をさせてもらおう」
 怪訝そうな表情のリチャードに西浦が耳打ちした。
「この問題には大蔵省、建設省、防衛庁、科学技術庁、この国のほとんどの省庁、そして政府も関与するんですよ」
「それがいいか悪いか知らないが、すぐに決断を下せないのか?」
「仕方ありません。責めを負うのを承知で警視庁、いや、私と蒲田がサポートします」

 
 公園の警護に当たっていた一人の警察官が西浦に歩み寄った。
「リチャード様という方に手紙を届けるように言われました」
「君に手紙を渡したのはどういう人物だったい?」
 リチャードの眉がきっと上がった。
「はあ、それが……ひょいと来て、さっと行ってしまったので、持ち場を離れる事もできず」
 苦笑して手紙を開封すると、そこには「午前2時、大手町駅、Tビル」とだけ書いてあった。

 
 リチャードは興味津々で手紙を覗き込む一同に尋ねた。
「大手町駅付近にTビルというのがありますか?」
「Tビルに地下鉄の出口があるんじゃなかったかな」
「夜も運転していますか?」
「いや、深夜の2時であれば運転してないですよ」
「なるほど」

「リチャードさん、その手紙」
 蒲田がじれったそうに聞いた。
「挑戦状だ」
「……という事は地下鉄の行方不明事件が」
「おそらく解決する」
「えっ、大手町ですね、大手町なんですね」
「落ち着け、敵がどんな手に出るかわからない。まずは私とリンが現場に行く。大吾は駅の出口で待機していてくれ」
「わかりました……お客さんを、山坂を絶対に救い出して下さい」
 リチャードは押し黙ったままの一座に声をかけた。
「では皆さんもお忙しいでしょうから、これで解散します。又、私たちの力が必要な時には声をかけて下さい」

 

外道の外法

 8月17日、午前2時まで15分前、大手町駅Tビル口、リンとリチャード、それに蒲田が一緒だった。
「そろそろいくぞ。大吾、職員は避難させたな」
「はい、当直は帰し、連絡があるまでは出口を開けず、出勤もしないように伝えてあります」
「地図は持ってきたか?」
「ここに」
 リチャードは駅構内の地図を見ながら蒲田に伝えた。
「大吾、お前は警察を指揮して全ての出口を警戒してくれ」
「念のため、隣の東京駅、銀座駅、東銀座駅の各出口にも人を配置しています」
「上出来だ。では行ってくる」

 
 リンとリチャードが無人の大手町駅構内へと降りると構内アナウンスが響き渡った。
「本日はようこそお越し下さいました。私はロック様の副官、ヅィーンマンと申します」
「何の目的で私たちを呼びつけた?」とリチャードは不機嫌な声で尋ねた。
「帝国特殊部隊、リチャード隊長なら察しがつきそうなものを。お預かりしたお客様たちをお返ししようとしているに決まっています」
「勿体つけずに早く返せ」
「またまたご冗談を。ただお返しできるはずがない。一つゲームをご提案します」
「ゲームだと?」

「現在、この星の時間で2時10分、あと三時間もすれば電車が動き出し、この星の住人の生活が再び始まります。しかし今は私達だけの時間、その時間を利用してハイドアンドシークを行いましょう」
「こっちが探せばいいんだな?」
「さようでございます。二時間差し上げますのでその間に私を見つけて下さい」
「お前がこの辺にいるとは限らんだろう」
「何のために人払いをしたこの地下街があるとお思いですか。私は確実に地下のどこかにおります」
「だったら二時間もかからんぞ」

「一つ言い忘れましたが、所々に私の配置した下僕がおりますのでそれらを排除しながら進んで頂かないとなりません」
「ふん、結局、お前のルールの中で遊ばなきゃならんのか」
「それはそうでございましょう。こちらには大切なお客様たちがいるのですから。さ、こう言っている間にも時間が残り少なくなっております。早速、始めましょう。残りは一時間五十五分、後ほどお会いできるのを楽しみにしております」
「いけすかない奴め」
 リチャードは、はき捨てるように言った。

 
「すぐに見つかるさ。リン、行くぞ」
「思ったんだけど、下僕が配置されているのが正解のルートだよね」
「ああ、下僕を倒していけばヅィーンマンにたどり着く」

 
 東京方面に進んでいくと早速下僕が現れた。リンたちの前に立ちふさがったのはネズミの顔の武装した兵士だった。
「任せておけ」
 リチャードは剣を抜きネズミの兵士に向かった。
 二、三合切り交わした、リチャードの剣がネズミの兵士の首を刎ねた。
「大した腕ではないな」
 リチャードが落とした首の断面を見た。
「リン、見ろ、こいつを。石でできているぞ」

 
 しばらく進みリンたちは駅構内の端で出会った牛の顔の兵士を倒した。
「おかしいな、大吾の地図を記憶したのだが……見落とした場所があるのか」
「やっぱり」とリンは口を開いた。「ねえ、リチャード、この駅って隣の東京駅につながってるんだ」
「そういう事か。この駅の構造も大概だが、姑息な奴だ」

 
 リンたちは東京駅に入った。今度はトラの顔の兵士が襲ってきたがリチャードの相手ではなかった。
「こいつも石だ。このあたりに石工組合でもあるのか?」
「わかんないけど、リチャード、あと一時間十五分しかないよ」
 さらに進み、ウサギ、龍の頭の兵士を倒し、東京駅の突端に出た。
「こいつら、十二支の獣たちだ」
「何だそれは、この星の伝説か?」
「そんなもんかな。あと七体はいるよ……多分、隣の日比谷かその先の銀座まで行かないと。急ごう」

 
 さらに日比谷、有楽町を過ぎ、銀座駅まで進んだ。兵士たちも今倒したニワトリでちょうど十人だった。
「さて、リン、この先は?」
「この先は東銀座駅で行き止まりのはず」
「どうやらそこがゴールだな。とっとと下らないゲームを終わらせるぞ」

 
 東銀座駅への連絡通路に入るとすぐにイヌとイノシシの兵士の襲撃があったが、リチャードはこれを一撃の下に倒した。

 駅の改札の前ではタキシードを着た長身の紳士が待っていた。
「ヅィーンマンか?」
 紳士はにこにこと笑った。
「時間内に見つけたぞ。約束通り地下鉄の乗客たちを返せ」
「はい、確かにお返し致します」
 ヅィーンマンは尚も笑いながら答えた。
「そちらの改札の先で皆さん、お待ちです」
「よし、リン、助けに行くぞ――リン、どうした?」
「……だめだ、だめだよ。僕は行かない」
 リンはぶるぶると震え出した。

 
 リチャードが仕方なくリンを残してホームまで乗客を確認しに行ってしまうと、ヅィーンマンが話しかけた。
「おやおや、何かを察知しましたか。ほっほっほ、大丈夫ですよ、ご心配なく。お友達にはすぐに会わせてあげますから」

 
 リチャードが全速力で走って戻ってきた。
「ヅィーンマン、これはどういう事だ?」
「どういう事?約束はお守りしましたが」

 リチャードはリンの様子を気にしながら言葉を選んだ。
「何をした?」
「ロック様は常に戦士を求めておいでです。異空間でも生きていけるだけの強靭な体力と精神力を持った人材は常に不足気味なのです」
 リンは頭を抱えて蹲った。
「乗客を異空間に連れて行ったのか?」
「もちろんです。ただ残念ながらこの星の方々にはそれに耐えるだけの力がなかったようですね」
「貴様」
「ここまで下等な生き物だとは思いませんでした。リチャード隊長も同じお考えでしょう。奴隷でしか生き延びる道はありませんな」
「私はそうは思わん」
「おやおや、どうされた。ロック様もご心配されますよ。幼馴染のリチャード隊長がご乱心か、とね」
「ロックは友人などではない」
「ふふふ、いいでしょう。この星の人間はひ弱なくせに何の危機感も持っていないのですから殺されても当然。隊長も守るつもりはない、というより守る意味がないとお思いなのでしょう。そのパートナーの少年以外にはね」
「確かにリンは別格だ」
「隊長が肩入れされるリン君に良いニュースがあります。一人だけ生き残った人間がおりますよ。よくご存知の方です。さあ、この星で生まれた異空間の戦士よ、現れるがよい!」

 
 ヅィーンマンの背後から濃い灰色のもやに包まれた人影が現れ、蹲るリンの前に立った。灰色の顔をしていたが確かにその表情はリンの見知ったものだった。

「……山坂さん?」
 リンは剣を抜いたリチャードを止め、影に向かってふらふらと近づいた。
 異空間の戦士は何のためらいもなく切りかかった。足元が定まらずよろけたリンは尻餅をついて難を逃れた。
「山坂さん、僕ですよ、文月です、山坂さん」
「無駄ですよ」
 ヅィーンマンが薄ら笑いを浮かべて言った。
「異空間の戦士に感情など残っていません」

 山坂がさらに切りかかろうとするとリチャードが叫んだ。
「リン、無駄だ。せめてお前の手で楽にしてやれ」
 リチャードが投げた剣をリンはゆっくりと拾った。
「山坂さん――

【リンの回想:山坂哲郎】

 ――初めて山坂さんに会ったのはシゲさんの紹介で警視庁の道場に行った時だった。
 習得したばかりの自然がどこまで通用するか確認したくて、いわば出稽古のような形でお邪魔した。
 山坂さんは警視庁のエースだった。身長が百八十センチ以上あり、その長身を生かした面打ちと離れ際の小手打ちが得意だった。
 まともにやり合えば当然勝ち目はなかったけど、これだけの猛者に自然が通用するのであれば、技の完成は間近だった。

 稽古が始まると予想通りに山坂さんが圧力をかけてきた。僕は防戦一方になりながら、自然を発動するのに必要な集中を極限まで高めていった。
 六歳の時に師匠ケイジに出会い、修行を続けた集大成の技を見せる時がきた。僕は高めた意識を静かに解放した。立ち会っている山坂さんが一瞬だけひるみ、その隙を逃さず渾身の面を叩き込んだ。

 山坂さんは笑顔で握手を求めた。
「文月、今回は私の負けだ。恥ずかしい話だが、試合中に一瞬お前の姿を見失った。だが次に会う時は負けん。覚悟しておけよ」
「ありがとうございます。でも山坂さん、僕はもう稽古には伺いません」
「何を言い出す。勝ち逃げなど許さんぞ――

 それから三ヶ月後、山坂さんが『都鳥』を訪ねてきた。
「文月。元気にしていたか?」
「はい、山坂さんもお元気そうで――今日は何の用ですか?」
「お前と試合がしたくてな、誘いに来たのだ」
「それは無理です――自分の技は元々、対戦相手に対してだけ気配を消すものだったんですが、突き詰めるうちに周りの人全てが僕の気配を感じられなくなるほど強力になりました。もうそうなったら競技どころではありません」
「なかなか面倒くさい奴だな――実はな、おれはA区で子供たちに剣道を教えているんだが、子供たちにお前の話をしたら『どうして負けた』、『リベンジしないのか』とうるさくてな、おれは肩身が狭いんだよ」
「子供たちのために?」
「お前の技がさらに研ぎ澄まされているなら好都合だ。あれをもう一度やってもらって、それを子供たちにも感じてもらいたい、それならどうだ?」
「……わかりました。で、いつですか?」
「一週間後、A区のN中学の体育館に午後6時、待ってるぞ」

 僕はA区の体育館で山坂さんと再び向かい合った。やはり山坂さんの圧力は半端ではなかった。僕は集中を高め自然を発動した。山坂さんは一瞬緩んだがすぐに立て直した。打ち込みを寸前で避け、小手を合わせてきたが浅かった。結局、時間内で決着がつかず、引き分けだった。

 館内で正座していた可愛らしい剣士たちが、ため息の後に割れんばかりの拍手をした。
「皆、どうだ、文月の姿が消えたのはわかったか?」
 全員が元気よく手を上げた。
「なあ、文月。この子たちの顔を見ろよ。あんなにほっぺたを真っ赤にして興奮している。おれはな、子供たちの未来のためにできる事は何でもしてあげたいんだ」
「いい人ですね、山坂さん――

 

 ――山坂さん、さようなら」
 斬りかかる山坂より一瞬早くリンは剣を抜き、下段から一気に斬り上げた。
「……ありがとう、文月。人として死ねる。子供たちの未来を……」
 リンは倒れた山坂の前にしゃがみ込んだままで顔を上げようとしなかった。

 ヅィーンマンは少し慌てたような表情になった。
「では約束を守りましたのでこれで失礼させて頂きます」
 タキシードをはためかせ、逃げ出そうとするヅィーンマンにリチャードが声をかけた。
「お前、とんでもない事をしたな」

 
 顔を上げたリンの体全体が白く光り始めていた。
 尋常でない雰囲気に驚いたヅィーンマンは飛び去ろうとしたが、リンは剣をかざしたまま向かっていった。

「うおおおぉ!」
「へあああぁ」

 リンの体全体が光の矢に変わり、空中に漂うヅィーンマンに猛烈な勢いで突っ込んだ。そのまま体ごと駅構内の天井に激突したが、光の矢と化したリンはお構いなしで進んだ。光の矢は駅の天井をぶち破り、地上を越えてはるか上空まで突き抜けた。
 リチャードはリンの行方を目で追おうとしたが、あまりのまぶしさに目を開けていられなかった。

 
 再び目を開けると天井には大きな穴が開いていた。リチャードは穴から地上に飛び出て、腰を抜かしている警備中の警察官に言った。
「警視庁の蒲田にすぐに東銀座駅のホームに来るように連絡してくれ。それから道路は――こんな大きな穴が開いたんじゃあ、しばらくは閉鎖だな」

 蒲田が到着するまでの間にリチャードは空から捜索し、近くの公園で気を失ったリンを発見した。
 リチャードは意識のないリンを担ぎ上げ、話しかけた。
「これがお前の本気なら、サラの予言通り銀河を変える男になれるかもしれないな」

 

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