目次
3 夏合宿
都鳥にて
朝10時を回った頃、『都鳥』の店内ではリンが静江に沙耶香を紹介していた。
「沙耶香ちゃん」
静江が沙耶香に声をかけた。
「お会いするのは初めてだけど真由美にそっくり。私、真由美がいるのかと思ったわ」
「……おばさま、確かに皆様、私は母似だ、とおっしゃいます」
バイトで出勤した未知はリンが美しい女性を連れてきたのに興味津々の様子だった。
「ねえ、沙耶香さん、こんなぼぉっとした男のどこがいいの?」
「何、言ってるんだよ。そんなんじゃないよ」
リンがあわてて否定すると「未知さん、リン様は頼りになる方ですわ」と沙耶香は小声で言って微笑んだ。
恥ずかしくなったリンは壁のカレンダーに何気なく目を向け、今日から山中湖で大学のテニスサークルの合宿の予定だったのに気づいた。急いでサークル仲間の靖男の下宿、続いて奈津子の家に電話をかけたが、当然つかまらない。
「しまった。どうしよう」
「リン様、私なら平気です。どうぞお出かけになって下さい」
「え、でも」
未知が口を挟んた。
「リンは欲が深いなあ、ちょっとくらい離れてたっていいじゃない。リンの留守中はあたしが相手してるから。ねえ、沙耶香さん」
「ありがとう、沙耶香さん、未知。明日には戻るよ。今から出かけるとなると電車か高速バスか――」
「シゲの車を借りなさいよ。最近、転がしてないから車が可哀想だって言ってたわ」
静江は言い終わらないうちにカウンターの公衆電話に向かった。
「OKよ。家まで取りに来てくれって。場所はわかるわよね、ついでにシゲの暮らしっぷりもチェックしてきて。あ、おみやげ買うの忘れちゃだめよ」
「じゃ、行ってきます」
まだ体のあちこちが痛くてテニスどころではないと思いつつリンは出発した。沙耶香は未知と談笑していて外出に伴う不安は感じていないようだった。
第三のソルジャー
スクーターで門前仲町まで行くつもりで出発したが、どうしても気になる事があったので夢の島に向かった。夢の島の入口付近で一旦スクーターを降りぶらぶらと海のそばを歩いていると、一人の男が声をかけてきた。
「あんた、リンだね」
丸坊主の頭のボディビルダーのように屈強な上半身の男がリンの前に立ちはだかった。
「おれはガイン、『石の拳』のガインだ。トーラとバフを倒したそうじゃないか。隊長もあんたの事を認めたみたいだが、おれはあんたを認めた訳じゃない。今、この場で勝負してくれ」
「えっ、もう居場所が特定されちゃったか。でもだめだよ。これから山中湖まで行かなきゃならないんだ」
ガインと名乗った男は問答無用で襲いかかってきた。リンが軽くいなすと、男はバランスを崩して堤防からそのまま海に飛び込んだ。
「こんな所で油売ってらんないや。確かめるのは次の機会にしよう」
リンは男が海から上がってこないうちに急いでスクーターで走り去った。