6.1. Story 2 邂逅

4 夜明けの街

 

ソルジャーの行方

 リンと沙耶香のスクーターが江東区S町に向かっていた頃、リンの家からそう遠くない公園の裏口に一台のヴァンが停車した。
 運転席から一人の職人風の男が降りて周囲に人気がないのを確認してから後部の扉を開けた。

「着いたぜ」
 男は誰かに声をかけたが、結局は一人で作業を開始した。ヴァンの後部に積み込まれていたのはM町でリンに倒された二人、トーラとバフだった。
 男は負傷して唸っているトーラを車中から引っ張り出すと背中に背負って歩き出した。するともう一人のバフが現れた。見えない誰かに背負われているような体勢で、まるで幽霊のように空中をふらふらと漂いながら職人風の男の後をついていった。
 職人風の男は公園近くの雑居ビルの裏口の扉を開けると、トーラを担いだまま中に入った。バフもふらふらと後をついていき、扉が閉まった。

 
 およそ十分後、職人風の男は意識のないトーラとバフをソファに寝かせたまま、がらんとした広間で一人の小柄な初老の男に会っていた。
「先生、連れてきたぜ」
「ああ、治療はするよ。だがこれが将来に禍根を残す事になるのかな」
「そんな事、言ったってよ。引き受けた以上断れないだろ」
「それはそうだ。時代が大きく変わろうとしているのかもしれないね」

 職人風の男は誰もいない空間に向かって声を上げた。
「これでいいんだよな?」
 すると誰もいないはずの空間から声が返ってきた。
「助けて欲しいと言われたので助けただけだ」
「もう一人の奴は……リンと接触したみてえじゃねえか」
「しばらく様子見だ。非常に楽しみな男だ。あの男によってリンがどう変わるのか、興味がある」
「ちぇ、呑気なもんだ。まあ、他にも仲間がいるかもしれねえしな――にしても、あっちは動くか」
「さあ、そんなに単純な図式ではないな」
「……震災、大空襲、三度目の破壊だけは勘弁だぜ」
「同感だ。そうならないように慎重に動こう」

 

悪夢にうなされる男

 Tホテルの一室で糸瀬は眠れないまま朝を迎えようとしていた。憔悴のために顔付きが険しくなっていた。
 チェックインしてから何度もかけた電話番号を再びダイアルした。
 ……出ない
 くそっ、あの男め、見捨てるつもりか。
 こうなったらこちらにも考えがある。
 もう少しで賞賛を手にするというのに、この期に及んで何年も前の亡霊に邪魔されてたまるものか。

 

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 Story 3 破壊

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