5.8. Story 3 誤算

2 緊急会談

「驚いた。君の言った通りだ。《武の星》が動かない」
 白亜の王宮で大帝はジノーラに言った。
「かの星の長老たちは現在の連邦を見限ろうとしております」
「となれば当面あちらはそのままで、ダレン方面への進攻だけを考えておけばいいね?」
「左様です。人材を求めるのであれば《鉄の星》ですが、ダレンまでの補給線を第一に考えるのであれば《オアシスの星》からという手もあろうかと」
「まずは《鉄の星》。それがきっと最良の道だ」
「わかりました。どのような手筈をお考えでしょう」
「私が行こう。トーグル王、ナジール王と対話をしてみたい」
「結構でございます」

 
 《鉄の星》への訪問は電撃的に行われた。
 大帝とジノーラが乗り込んだJBの操縦するシップが王都プラのポートに到着した。
「じゃ、おれはここにいるぜ。ヘタにインプリント受けてるから素性がばれちまう。そこいくとあんたらは適当に身分偽って書類出せば済む――まあ、シップの紋章見れば連邦シップじゃないのは一目瞭然だけどな」
 JBの言葉通り、一行が乗ってきたシップには連邦を意味する七つ星ではなく、帝国の不思議な模様、それはピンク色の鏃のような形が不規則に並ぶ形、知る人が見ればすぐにわかる舞い散る桜の花びらだった、が印されていた。

 
 二人はシップを降りてポートに併設した移民局に入った。インプリントを受けた者は廊下を歩く間に自動でチェックが行われるが、大帝もジノーラもそうではなかったので窓口で書類を提出する必要があった。
 大帝とジノーラは顔を見合わせた後、偽りでない名前を書いた。
 書類を受け取った係官はにやりと笑ってから書類を二人の前でひらひらさせた。「ふざけていないで書き直せ」と言っているようだった。
 大帝とジノーラが取り合わずに黙っていると係官は急に真顔になり、二人を通してから奥へ駆け出した。

 
 二人はプラの中心部に入った。ほのかな灯りに照らされた石畳の歩道には人が溢れ返っていた。
「ジノーラ、この星の素晴らしい所は恒星のない暗闇の世界に光をもたらした、これに尽きるね」
「そうですな。普通はここで暮らそうとは思わない。人間とは不思議な生き物です」
「大門が見えた。この先が王宮だな」

 二人は歩道を降り、観光客でごった返す大門に近付いた。
「デズモンドに聞いた所によれば、デルギウスはこの巨大な門を開けたらしい――その話が子供心にひどく焼きついたのを覚えているよ。自分が住む世界とはまるで違うと思った。今、その大門を目の当たりにしているのは感無量だ」
「大帝、感傷に浸るのもよろしいですが、問題はリチャードです。リチャードが果たして大門を開けるに値する人間かどうか」
「そうだね。まずは王宮に向かおう」

 
 大門の脇の小門を抜け、王宮前の広場に出て中央の噴水を取り巻く円形の歩道に乗った。心なしか兵士の数が増え、二人を監視しているようだった。
「ほぉ、あの移民局の係官、たるんではおりませんでしたな。ちゃんと私たちの事が連絡されているようですぞ」
「そのようだね――ああ、あれが有名なホテル・シャコウスキーだ。ちょっと降りてみよう」

 
 二人が歩道を降り、古い建物に近付くと一人の兵士が歩み寄った。
「観光の方でしょうか?」
「ふーん、この星では一人一人に聞いて回るのかい?」
 大帝が意地悪く質問をすると兵士は表情を変えずに答えた。
「そういう訳ではありませんが、王宮にご用のある方と判断しましたので声をかけさせて頂きました」
「なかなかのものだ。この人混みの中で私たち二人を特定してマークし続けている」
「お褒め頂き光栄の至りですが裏では大騒ぎです。『大帝が来た』、『本当か』と――それで私が代表して尋ねております。帝国大帝にあらせられますか?」
「いかにも。そして隣は文官長ジノーラ。王宮に案内してくれるかな?」
「はっ、もちろんです。危害を及ぼす恐れはなしと報告致しますので」
「危害か。えらい言われようだ」
「失礼致しました。こちらへどうぞ」

 大帝とジノーラは近衛兵の案内で再び歩道に乗った。
「時に君」と大帝が兵士に話しかけた。「リチャード皇子と同じくらいの年頃のようだが」
「はっ、皇子は幼馴染みであります」
「ふーん、君から見てリチャード皇子はどんな人間だい。やはり『全能の王』の再来と呼ばれるくらいだから普通と違うのかな?」
「うーん、言っていいのかな……」
「帝国の人間は信用できないかい?」
「滅相もありません。あいつ、あ、リチャードですが、あいつが怒るのではないかと思いまして」
「ははは、あいつ呼ばわりかい。本当に仲良しなんだなあ」
「はい。あいつはごくごく普通の若者です。一緒に酒も飲むし、馬鹿騒ぎにも参加します。もちろん学問や武術は人並み外れておりますが、それを鼻にかけるような男ではありません」
「普通の若者か――君はリチャード皇子に『全能の王』の再来らしく振る舞ってほしくはないのかい?」
「この星の人間全てがわかっていると思います。たとえあいつがプラの大門を開く事ができなくても、私たちを大切にする優れた王になると――偉そうな事を言い過ぎました。今のは忘れて下さい」
「なるほど。リチャード皇子は愛されているんだね」
「はい――そろそろ王宮です。私が入城手続きをしてまいります」

 兵士は王宮の門を守る衛兵と話をしてすぐに戻ってきた。
「緊急会議が入っているようで、もうしばらくお待ち頂く事は可能でしょうか。いや、それではあまりにも無礼ですね。今すぐに入城できるよう、もう一度掛け合ってきます」
「いいんだよ、君。突然来たのは私たちの方だ。会議が終わるまでカフェで時間をつぶすよ」
「では衛兵には私の名前を言って頂ければすぐに入城できるように言い付けておきます」
「わかった。君の名は?」
「ゲボルグと申します」

 
 大帝とジノーラは王宮近くのカフェでくつろいだ。
「あのゲボルグという正直な青年の言う通りだとしたらリチャードはまだ『全能の王』の再来とは認められてないようだね?」
 大帝の質問にジノーラは笑って答えた。
「はて、そもそも『全能の王』とは?」
「その通りだ。デルギウスの場合はプラの大門というわかりやすいイベントがあったから、それを『全能の王』になるための資格試験のように考えがちだが、デルギウスの真似をしたからと言って『全能の王』になる訳ではない――となると『全能の王』とは何だろうね?」
「人間とはシンボリックな対象、すなわちイコンを求めがち――ですがそう言っては身も蓋もない。デルギウスの時にはアンタゴニスという道標がおりました。アンタゴニスが導火線となり、デルギウスに火を点けたと考えてはどうでしょう」
「しかしリチャードにもアレクサンダーがいたじゃないか?」
「言い方がよくありませんでした。正確にはアンタゴニスはサフィの言葉を伝えたに過ぎません。が、サフィがアレクサンダーに言葉を伝えるか」
「サフィ――銀河の歴史の中で最も優れた人間に見込まれないといけないのか。アレクサンダーに会ったがそんな感じではなかったな」
「サフィに見込まれるという点ではアレクサンダーは最も対極にいる人間ですよ」
「ん、どういう意味だい?」
「大した話ではありません。それよりもリチャードに火を点けるためにはどうするか、そちらを考えるべきでしょう」

「確かにね。『銀河の叡智』を再現するためには中心となる人物が必要だ。私のようなシニスターに見込まれた者ではない、人々を良い方向に導くような」
「おやおや、シニスターに見込まれていても大帝のように強固な意志を持つお方であれば、ご自分で叡智を再現させてもよろしいでしょうに――まあ、いいです。サフィの声を集約するなら『世界を巡り、人を集めろ』、リチャードにもそれが当てはまるのではないでしょうか?」
「――ちょっと待ってくれ。それと同じ想いを抱いた事があったぞ。そうだ、アレクサンダーの部屋でリチャードたちに会った時だ。コメッティーノ、公孫水牙、ゼクトの四人を見て何と素晴らしい仲間に恵まれているのだろうと感心した」
「ほぉ、すでに四人。デルギウスの例に倣えばあと三人集めればいい訳ですが、そんな単純な話ではありませんな」
「どうしてだい?」

「七聖にはノカーノというもう一つの巨大な輝きがあったからこそ叡智が発現したと考えられませんか?」
「ノカーノ……私とデズモンドを引き合わせた聖人。久々にその名を聞いたよ」
「デズモンドの慧眼を誉めねばなりませんな。今の時代にノカーノのような巨大な光があればいいのでしょうが――」
「星がそう告げてはいないんだね?」
「以前申し上げた通り、一瞬だけ巨大な光が生まれる前兆がございました」
「ん、でもそれはナインライブズでは――」
「さて、世界を喰らい尽くすナインライブズでしょうか、それとも叡智を発現させるノカーノの光でしょうか、そればかりは私にもわかりません」
「その巨大な光をうまく導けば?」
「実に楽しいですな。その巨大な光を手に入れるにはリチャードが必要、リチャードはこの星に縛られていてはいけないのです。私たちの手で彼を解放してあげるのですよ――」

 
 大帝たちは王宮に通された。玉座の間ではやや緊張した面持ちでトーグル王が待っていた。
 トーグル王は大帝の顔を見るとすぐに声をかけた。
「これは――来られるとわかっておれば、お待たせするような非礼な振る舞いはしなかったのですが」
「いや、こちらが勝手に押しかけたのです。お気になさらないで下さい」
 トーグルは二人の客人に椅子をすすめ、三人は向かい合うような形で長方形の卓に座った。

「で、本日の御用の向きは何でしょうかな?」とトーグルが尋ねた。
「――単刀直入に申し上げます。連邦を捨て、帝国に協力して頂きたい」
「これは又、思い切った事を言われますな」
「銀河連邦はトーグル王の祖、デルギウス王が作り上げた枠組みですから愛着があるのは理解しております。しかし今のまま連邦に留まるのが果たして正しい選択か、賢明な王であればおわかりになられているはず」
「私にはやらねばならぬ事が残っているのですよ」
「『銀河の叡智』の再現ですな」
「その通りです。遍く世界を照らす光の下、叡智は再び現れるのです。《賢者の星》……最近では《愚者の星》と揶揄する者が多いですが、あのような悲劇は二度と起こってはなりません」
「同感ですな。私も帝国建国の動機は同じ。この銀河に再び叡智を蘇らせるためです――ですがそこに至る道筋が異なります」
「ほぉ、大帝はどのようにすれば叡智が発現するとお考えですか?」

「王はご子息リチャード君が『全能の王』の再来であると信じ、その力を持って叡智を実現させようとしておられますが、果たして一人の力でどこまで成し遂げられるものでしょうか。歴史を紐解けばデルギウス王の周りには彼を支える六人の人間の存在がありました――いや、失礼。言うまでもない常識でしたね」
「無論、七聖についてはよく理解しているつもりです。見聞を広めさせるためにリチャードを連邦大学に行かせました」
「存じ上げております」と大帝は言った。「アンフィテアトルでご学友にもお会いしました。連邦議長のご子息、将軍のご養子、《武の星》の指導者の息子、いずれ劣らぬ素晴らしい才能の持ち主ばかりで羨ましく思ったものです」
「七聖には三人足りぬではないかとおっしゃりたいのでしょうか?」
「まさか。単純な数の問題であればやがては解決致します」
「では何を?」
「王よ。敢えて目をそむけるそのお気持ち、わからないでもありませんが最終的に叡智を発現させたのはデルギウス王と並ぶ巨星、ノカーノの存在があったからこそではないでしょうか?」
「ふむ。面白い見方ですな」
 ノカーノという名前を聞いた瞬間、トーグル王の顔が引きつったように見えた。
「これは是非、リチャードにも話を聞いてもらわないと」
 そう言って、トーグルは一旦部屋を出て、すぐに戻った。

「失礼致しました。リチャードを呼びにやりましたので間もなく来ると思います」
「リチャード君は今どこに?」
「スペースボールの練習でグラウンドの方におります」
「ああ、確か『ロイヤル・プラ』のキャプテンにしてディフェンス・リーダー、スペースボール界のスーパースターでしたな」
「お恥ずかしい限りです」
 トーグルは息子を誉められ、まんざらでもない表情を見せた。

 
「話を続けましょうか。ならばノカーノに該当する人間は誰でしょうな?」とトーグルが尋ねた。
「ジノーラの見立てでは」と言って大帝はジノーラを見た。「残念ながら巨大な光は未だ生まれていないようです」
「ノカーノと同じ役割の者が見つかればよいと?」
「見つかるだけでは十分ではありませんな。リチャード君がその足で、その目で確認をした上でないと――王はデルギウス王と同じようにリチャード君を長期に渡る人探しの旅に出す気がおありでしょうか?」
「現在の連邦の状況ではなかなか難しい話です」
「そうでしょう。ようやく本題に戻りました。もしも帝国に協力頂けるなら、リチャード君には世界を旅してもらおうと思う。それが叡智を発現させる近道、いや、唯一の道です」
「なるほど。帝国の豊富な人材を持ってすれば、リチャード一人ぶらぶらしていても問題ないという訳ですか」
「――思い出して頂きたい。連邦に余裕があった頃にはデズモンド・ピアナという一歩間違えば山師のような人間に自由に行動させていた事を。リチャード君には帝国におけるデズモンドのような存在になってほしいのです」
「ほほぉ、あなたのようなお若い方からデズモンド・ピアナの名が出るとは驚きました。確かにデズモンドのような豪快な人間でしたら、何かが起こる気が致します――しかし何故又、その名を?」
「デズモンドは私の育ての親です――

 
 この一言を聞いた瞬間、トーグルは硬い物で後頭部を思い切り殴られたような衝撃を受け、「とうとう来たか」という絶望にも似た感覚が頭の中を駆け巡った。
 かつて予想した通り、デズモンドが《青の星》から送り込んだ刺客、それこそが目の前にいる大帝なのか。
 想像していたよりもずっと危険な大物だった。それがセンテニア家の存亡を脅かそうとしている。
 だが負ける訳にはいかない。
 トーグルは弱点を探り出すため、この男の一挙手一投足も見逃すまいと集中した。

 
 ――デズモンドは『トーグル王のおかげで今の成功がある』とよく申しておりました。つまり王は私にとっても恩人です」

「……謎に包まれたお方と伺っておりましたが――しかしそのような重大な秘密を私に漏らしてもよろしいのですか?」
「はて、問題がありますか?」
「いや、例えばですな。あなたの生家に行き、弱みを握る事も可能な訳ではありませんか」
「王を信頼しておりますので――どうも話が横道に逸れますな。ジノーラ、君から何かあるかい?」

 
 それまで黙っていたジノーラが小さく微笑んで居住いを正した。
 噂には聞いていた帝国の頭脳、ジノーラを初めて見るトーグルは緊張して言葉を待った。
「こうして話をさせて頂いておりますが一つ気になった点がございます。星の中には大臣やら有力者やらが大挙して押しかけ、王を取り囲むように座る事もままございます。しかしこの星では王のみ。これが通常のお姿ですか?」
「え、ええ。可笑しいですか?」
「つまりはこの場が最高決定機関。王が今お気持ちを固めれば、そのままこの星の意志という事になりますな」
「いや、リチャードや《銀の星》のナジール王、エスティリ皇子にも確認しないとなりません。我らは双子星ですから」
「なるほど。あくまでも両王室の意志、つまりは王と皇子、皇女たちのお気持ちが大事。リチャード様、ジャンルカ様、サラ様、エスティリ様、ノーラ様……はて、もうお一方皇子がいらっしゃったような」
「い、いや。おりません。その五名で全てです――」

「トーグル王。帝国は何もかも知っております。我々にお任せ下されば、全ての皇子、皇女の輝かしい未来をお約束しましょう。決して未来に禍根を残すような真似は致しません」
「ジノーラ殿。何か勘違いなさっているようだ。皇子や皇女たちの未来に心配事は何一つございませんぞ」
「そうですか。王の中に潜む二律背反、リチャード皇子を『全能の王』の再来として連邦の将来を託したいと期待される一方、その皇子を完全に信頼し切れないのは『それ』に原因があると思いますが」
 大帝は不思議そうな顔をしてジノーラの発言を聞いていたが、トーグルを見るとわなわなと震えていた。
「……ジノーラ殿。何を根拠にそのような事を言われます。一体何を、どこまでご存じなのか」

 
 そこに練習を切りあげたリチャードが到着した。
「父上」と言ってからリチャードは客人を見た。「――あなたは大帝?」
「リチャード君。アンフィテアトル以来だね。又、会えて嬉しいよ」
「帝国はやはり連邦を離脱したのですね」
「ん、『やはり』とは?」
「以前お会いした時にそう感じたのです。帝国は今の連邦には納まり切らないであろうなと」
「さすがだね。まあ、座って話をしようじゃないか」

 
 リチャードは大帝とジノーラに一礼をしてトーグルの隣に腰掛けたが、トーグルは苦虫を噛み潰したような顔をしたままで何も言わなかった。
「――で、本日の御用件は。もうすでに父と話されたのでしょうが」
「ああ、帝国への協力を求めに来たのだよ」
「父上、一考に値する申し出ではありませんか。どう考えても現在の連邦よりは帝国の方が魅力に溢れております」
 リチャードの言葉にトーグルが何も答えないでいると大帝が代わりに答えた。
「だが君のお父上はデルギウス王の作り上げた連邦を見捨てる事はできない、そうお考えのようだ」
「父上、センテニア家の威光にこだわってどうなりますか。銀河の繁栄のために実を取る時ではありませんか?」

「リチャード」
 ようやくトーグルが絞り出すようなかすれ声を上げた。
「お前はわかっておらん。お前が『全能の王』となり、連邦を復興させ、銀河の叡智を取り戻す――そのために私やナジール王がどれだけ心血を注いできたかを」
「父上」
「見苦しい所をお見せした。大帝。今日の所はお引き取り願えないだろうか」
「わかりました。我々もせっかく来ましたし、本日はプラの観光としゃれこみましょう。明日又、お伺いしてもよろしいですか?」
「……結構です。では明日お会いしましょう。ホテル・シャコウスキーに部屋を用意させますので」

 リチャードが王宮の門まで見送りにきた。何か言いたげなリチャードを見て大帝が声をかけた。
「リチャード君、どうやらお父上は重い鎖に繋がれていられるようだ」
「大帝、それは?」
「私にもよくわからないのだ。まあ、明日には結論が出るが、ううむ、なかなか難しいね」

 
 その夜、ホテルの古風なバーで大帝はジノーラからリチャードとロックの誕生のいきさつを聞かされた。
「――そうだったのか。リチャードが造られた王だったとは。全ての計画に狂いが生じてしまうのかな」
「そんな事はありません。元々、『銀河の叡智』など創造主の戯れに過ぎないのですから。導く者が造られた存在であったとしても創造主の気持ちさえ動かせればそれでいいのです。ノカーノの後を継ぐ者と造られた『全能の王』、なかなか楽しい取り合わせではありませんか」
「ジノーラにかかると地道な努力が馬鹿らしく感じられるよ」
「それはいけませんな。創造主は努力を怠る者には厳しいですぞ」
「わかってるよ――それにしても『カザハナ計画』には色々とありそうだね。トーグル王の希望を叶えるためだけとは思えない」
「さあ、私はその辺の生臭い企みには興味がありませんなあ」

「ふふふ、ジノーラらしいね。さて、我々は明日どうすればいいのだろう?」
「トーグル王の名誉を損なう事なく、こちらの計画も遂行するためには武力を持って全てを奪い取る、トーグル王がひた隠しにする恥部も含めてです。そのためには多少の犠牲は止むを得ません」
「悪役を買って出る訳か。時代を変えるためには仕方ないかな」
「これからは汚れ仕事にも手を染めねばならぬ時が多々訪れましょう。どこまで非情に徹する事ができるかでございます」
「シニスターという名のトリックスターの宿命だね」
「大帝がご自分の手を汚されるのがお嫌でしたらマンスールにやらせればいいだけです。そのためにあの男を飼っているのではありませんか」
「使いようという訳か」

 

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