5.7. Story 2 帝国建国

2 《巨大な星》の王

 大都がゲルシュタッドを連れてモータータウンに戻った翌日、オサーリオたち三人の将軍が戻ってきた。
「さて、ダイト君。色々あったがわしらの答えを出す時だ――この命、君に、いや大帝に預けよう。わしだけでなくウェインもラカも同じ考えだ。わしらに付いて来る者も多くいるし、これからもその人数は増える。君は一夜にして一大帝国を築く訳だ」
「ありがとう。オサーリオ、ジョンストン、そしてホルクロフト。君たちがいてくれればどれほど心強いか。だがまだ内政の面、外交の面、人材は必要だ。これからが本当の勝負だ」
「プ ララトス、アダニア問わず、人材を広く集めよう」
 ホルクロフトが言い、オサーリオたちも頷いた。
「都はアンフィテアトルの北にしようと思うんだ」
 大都の言葉にジョンストンが答えた。
「ふむ。何もない場所だがまっさらな国にふさわしいと言えばふさわしい」
「君たち三人には変わらず帝国の軍務の中枢を担ってもらいたい。軍務の最高権限を――」
 大都が途中まで言いかけた時に隣に立っていたゲルシュタッドが会話に割り込んだ。
「おい、アニキ。そりゃないだろ。おれが一番の家来だ。おれが一番偉いんじゃないのか?」
「そうだった。ゲルシュタッド、ごめんよ。君には将軍の更に上の階級、そうだな、元帥になってもらおう」
「元帥?」
「ああ、元帥の役目は――そうだな、私の護衛だ」
「おお、それは適役だ。よろしく頼むぞ。ゲルシュタッド元帥」
 オサーリオが楽しそうに言った。
「任せとけ。アニキにはおれが指一本触れさせやしねえよ」

 
 早速、モータータウンの駐留地に帝国の臨時政府が設立され、オサーリオたちに付いてきた旧連邦軍の兵士たちも含めて、各所で国造りのための会議や準備が始まった。
 大都はそういった兵士たちの様々な場所での自発的な国造りの準備を見て回り、一緒に会議に加わった。
 食事を取るのも忘れ、夢中になっていた大都の下に訪問者があると一人の兵士が伝えにきた。
「はて、この場所に私がいるのを知っているとは誰だろう」

 
 大都がモータータウンの工場の入口までゲルシュタッドを従えて向かうと、一人の上品な紳士然とした小柄な男が待っていた。
「あなたですか。私に用事があるというのは」
 男は優しい目で大都を見つめてから、ゆっくりとした低い声で話し出した。
「あなたが決起したと聞きましてね。大急ぎで駆け付けたのですよ――いや、失礼。私の名はジノーラ。『星読みのジノーラ』と呼ばれております」
「ジノーラ殿。失礼ですがどこかでお会いした事がありましたか?」
「お会いするのは初めてですな。それよりも新しい国では文官が必要ではありませんか?」
「言葉は悪いですが、自らを売り込みに来られたという解釈でよろしいですか?」
「悪い虫がつく前に私のような者をお雇いになるのが賢明です。ほれ、そちらのゲルシュタッド殿のように」
「ほぉ、ご自分を売り込まれるほどですから、さすがに読みがお深いですね。その通り、私の横には最強の武官と文官を置いておきたいのです――ゲルシュタッド、君はどう思う?」
「おれはこの人がどれだけ頭がいいかはわからないが、この人は強いな」
「やはり君にもわかるようだね。確かにこの方は強い。残念ながら君は銀河で三番目の男になってしまうね」
 話を聞いていたジノーラはくすくすと笑い出した。
「いや、お二方。その心配には及びませんぞ。何故なら――」
「――ジノーラ殿は別の世界の人間という訳ですね。それであれば銀河で最強の看板を降ろさずに済みそうだ」
「なかなか勘も鋭いですな。すっかり天才少年、須良大都の時分に戻られたようだ」
「ほぉ、《青の星》にも行かれましたか?」
「昨日までおりました」
「――では彼女にも会われたのですね?」
「はて、彼女とはどの彼女でしょうな。なかなかこれで女性にもてるものでね――さて、ゲルシュタッド殿も飽きておられるようです。どうなされますか?」
「もちろん異存はありません。『星読みのジノーラ』、たった今より帝国の文官の長に任命する。これでよろしいですか」
「有難き幸せ。これで悪い虫も思うようには動けますまい」
「――あなたの目的が何であろうと、しばらくはお付き合い願いますよ」

 
 その夜遅く、大都はもう一人の訪問者を迎えた。夜闇に紛れるようにローブ姿の男が駐留地の大都のテントの前に音もなく立った。
「――マンスールか?」
「これは大帝、よくぞ気配だけでおわかりに」
 マンスールは相変わらず顔を隠したまま、滑り込むようにテントに入ってきた。
「何用だ?」
「いえ、たった数日でここまでの勢力を手に入れるとはさすがですな」
「お前の方はどうだ?」
「アンフィテアトルの北に都を置くと聞きまして早速、あの辺りの土地を押さえました。明日からにでも宮殿の設営に着手いたします」
「資金はどう工面した?」
「これでも私はこの星の危機を救った宗教家。私の一言で宮殿を一つ建てるくらいの資金はすぐに集まります」
「ほぉ、ドノスの力もあるのだろうが、それはすごいな。だがあまり華美な宮殿は困る」
「何をおっしゃられます。銀河で一番の建築にする事によって、初めて人々も集まるのです」
「だったらエテルにでも頼むか」
「いや、あの男はちょっと――格調に欠けますな」
「わかった。好きにしろ。都と宮殿はお前に任せる――ところでうちの武官と文官の長に会っていくか?」
「……それは又の機会に。私はこれで失礼致します」
 来た時と同じようにマンスールが音もなく去ると大都は笑いをかみ殺した。
「マンスールよ。お前の好きにはさせん。ここは私の国だ」

 
 その日からわずか半月の後、大都は《巨大な星》全土に帝国の設立を伝えた。
 この星を内政面で動かすアダニア派の最高権威、ワット枢機卿、プララトス派のマザーの代理のドウェイン、そして軍事面を掌握するラカ・ジョンストン提督の全員が大都を大帝とする帝国を承認した。
 だが一つだけ問題があった。大都は連邦員ではなかったためインプリントを受けておらずポータバインドが使えなかった。
 そこで大都の帝国樹立宣言は、ジョンストンのポータバインドを経由して《巨大な星》全土、及び連邦領内に送られた。

 
 これをマンスール以外の二つのシニスター、アレクサンダーとエテルがどう捉えたかと言えば、チエラドンナの計画通り、シニスターが未だ発動していなかったためか、特別な感情は湧き起こらなかった。
 アレクサンダーは「叡智の再来とは面白い事を言うな。だが理に叶っている」と独り言を言い、エテルも「あの青年か。この星の王が『転移装置』の最初の使用者とは愉快な話だな」という感想を助手のギンモンテに伝えただけだった。

 

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