5.4. Story 1 ニトの乱

2 脱出、そして別れ

 バスキアとロイは交替でシップを操縦し、宇宙空間を進んだ。
「なあ、ロイ。デズモンドはまだ《青の星》にいるだろうか?」
「冒険家だからな。別の目的地を考えた方がいいかもしれん」
「さっきからヴィジョンを試しているんだが通じないな。お前もポータバインドが使えればいいのにな――で、どこを目指す。いっその事、私の故郷の《狩人の星》にでも行くか?」
「遠いんだろう。この辺りで一番安全な星はどこになる?」
「《歌の星》か《牧童の星》、いや待てよ、《武の星》がいいんじゃないか。彼らが味方についてくれれば《戦の星》は平定されるかもしれないぞ」
「なるほど。だが当面はこの状況を打開しないとな。外を見てみろ」

 
 ロイに言われ、バスキアがシップの外を見ると何十隻ものシップがこちらを取り囲むようにして浮かんでいた。
「海賊か。ご丁寧にシップの船体に旗が立っていやがる――グアルドロ海賊団だそうだ」
「こんな所で死ぬ訳にはいかないな。だが話し合いが通じる相手でもなさそうだ」
 バスキアはしばらく黙って考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「こうしよう。このシップにはもう一隻、非常用の一人乗りシップが格納してある。君とゼクトはそれに乗ってここから脱出してくれ。海賊共は私が引き受けよう」
「バスキア、何を言い出すんだ?」
「ロイ、君は怪我をしている。今だって気力だけで立っているような状況のはずだ」
「ただのかすり傷だと言ったろう。私を見くびるな」
「君が強いのは知っているが、それは地上での事だ。宇宙空間ではそれなりの戦い方があるんだよ」
「――足手まといという意味か?」
「まあな。それに君にもしもの事があったらゼクトはどうなる。可愛い息子を海賊にしちまっていいのか」
「しかし――」
「何、また合流すればいいさ。そうだな、ここから一番近い《牧童の星》で待っててくれ。こいつらを撃退したならすぐに行く。ゆっくりと傷の手当でもしていてくれよ」
「わかった。だがバスキア、約束してくれ。死ぬな」
「大丈夫さ。力が戻ったのを実感している。海賊のお頭をあっという間に仕留めてみせるよ」

 ロイは眠っていたゼクトを起こし、バスキアが事情を説明した。
「バスキアのおじさん、またすぐに会えるよね」
「ああ、会えるとも。さあ、早くそっちのシップに乗るんだ――ロイ、君のシップを切り離したなら、私は海賊の旗艦に向かって突っ込む。とにかく《牧童の星》を目指して一目散で逃げてくれ」
 すでにシップに乗り込んでゼクトを膝に乗せたロイは黙って親指を突き上げた。
「よし、作戦決行だ」

 
 ロイとゼクトを乗せたシップが宇宙空間に放り出された次の瞬間、バスキアのシップは海賊の本隊を目がけて突進を開始した。
 ロイはバスキアの言葉に従って夢中でシップを走らせた。ロイのシップの姿が小さくなっていくのを視界の端に捉えたバスキアは満足そうに微笑んだ。
「さて、グアルドロってのはどいつだ」
 バスキアはシップの外に出て機体の上に仁王立ちになり、矢を弓に番えた。

 
 ロイのシップは順調に航行した。
「父さん、バスキアのおじさんは大丈夫でしょうか?」
 窮屈な船内でロイの膝の上で縮こまっているゼクトが尋ねた。
「あ、ああ……大丈夫」
 父の声の尋常でない響きに驚いたゼクト少年は父を見上げた。
「父さん!顔が真っ青ですよ」
「……何、大丈夫……だ」
 ゼクトは自分の腰のあたりが濡れているのに気付き、その液体にそっと触れてから、透かして見た。
「血だ。父さん、まだ傷口が――」
「……」
 ロイは目を閉じ、意識を失っていた。
「父さん、父さん、目を覚まして下さい。死なないで!」

 

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 Story 2 流浪の父子

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