5.2. Story 1 愚者の選択

4 エリザベートの哀しみ

 《花の星》の王都ノヴァリアでは《賢者の星》の異変をいち早く察知した。
 勇敢な王、カーリアは直ちに調査団を編成して現地に向かった。
「――むぅ、これは」
 目の前に浮かんでいたのは白濁した深い霧に覆われた星だった。カーリアは無人の大気調査機を飛ばし、シップ内の乗員たちに星の住民とコンタクトを取るように命じた。
「だめです。”Out of Service”になっています」
「こちらも連絡取れません」
 カーリアもハルナータにヴィジョンを試みたが反応はなかった。

 間もなく大気の調査結果が届いた。
「……これは……訓練を受けたコマンドであっても危険なレベルの大気中の放射能、及び地中からは致死量に等しい毒素が検出されましたが」
「わかった。どうやら恐れていた最悪の事態が起こったようだ。直ちに帰還し連邦への連絡を。《賢者の星》とのコンタクトは継続して試みてくれたまえ」
 カーリアは呆然たる思いで窓の外で小さくなる星を見つめた。
 これでは《愚者の星》ではないか――

 
 《賢者の星》の異変の一報は連邦内の星々に瞬く間に広がり、もちろん《巨大な星》でもその話で持ち切りであった。

 アンフィテアトルにある劇場の支配人ホアンは心配だった。劇場の花形女優、エリザベート・フォルストは《賢者の星》の生まれだったからだ。
 その知らせが届いてから三日間はエリザベートと連絡を取る事ができなかった。
 ようやく四日目になって「明日劇場に行きます」というメッセージが届いた。
 そして劇場で不安げな面持ちで待つホアンの前にエリザベートが現れた。
 彼女は自慢の長い金髪を肩の所でばっさりと切り落としていた。
 あっけに取られるホアンにエリザベートは言った。

「ホアン、私、今日限りで女優を引退します」
「あ、ああ。ショックなのはわかるが、これからどうするのかね?」
「浮かばれない魂が少しでも救済されるように巡礼の旅に出ますわ」
「あの、昔流行った、《祈りの星》に行く奴かい。それは止めておいた方がいい。最近は連邦の箍が緩んできているせいか、海賊が横行してとても危険らしいよ」
「オーロイとも相談したんです。彼も同行してくれますから安心です」
「しかし」
「劇場にはアンがいるじゃありませんか。私が抜けても大丈夫」
「わかった――くれぐれも気を付けて行くんだよ」
「ありがとう。では元気でいて下さいね」

 エリザベートが去った後、ホアンはため息をついた。
「やれやれ、アンにも恋人がいるみたいだし。この劇場もいつまで続くかな」

 

別ウインドウが開きます

 Story 2 王制の最期

先頭に戻る