5.1. Story 1 創造主の気まぐれ

2 Magnetica

 深い霧だった。大小様々な木が生い茂り、日は差し込まない。視界も全く効かず、己の指先さえ判別できなかった。
「レラヴィントフ、本当にここでいいのか?」
「うむ、この場所こそわしの研究に最適の地じゃ。ここであればよく育つはずだ」
「で、どのくらいの期間を考えておけばいい。製品化の目途が立ち次第、販路を確立させねばならん。こちらも準備がある」
「そう急くな。最低でも五年、長ければ三十年、五十年かかるかもしれん」
「そんなにかかるのか」

「プロトアクチア、お前さんは《古城の星》の王という表向きの顔の他にも兵器商の裏稼業で荒稼ぎをしているの。これしきの投資、痛くも痒くもないではないか」
「俺はな、荒っぽい事をやって王まで登り詰めたが、もっともっと力が欲しい。だが連邦と正面切って戦うほどの愚か者ではない。だから武力ではなく、違う形で力を手に入れたいのだ。俺以外の誰が《享楽の星》でくすぶっていたお前の戯言を真に受けると思うか。俺はお前を拾ってやったのだぞ。その辺を理解しておけよ」
「威勢がいいの。まあ、仲良くやろうではないか」
「……しかし五十年もお前とあの薄気味悪い三人の助手を面倒見ねばならんと思うと気が重い。あいつらは一体何者だ?」
「薄気味悪いとは。あ奴らはああ見えて優秀じゃぞ。今もわしらのために誰も容易には近づけないような結界を張りに行ってくれている」
「結界だと?」
「ほれ、来たようじゃ」

 
 小さな笑い声が聞こえた。霧の中で枝や葉を踏む音が近くで止まった。
「レラヴィントフ、終わったぜ」
「結界とは何をしたんだ?」
 プロトアクチアが勢い込んで尋ねた。
「あんたもいたのか。何、” Magnetica “を発動させただけだよ」
「『マグネティカ』?」
「Arhatアーナトスリの金色の石だい」
 子供のような声が答えた。
「力をちょいと増幅したけどな」
 別の子供のような声も答えた。
「シェビ、本当にそれだけで連邦から身を隠す安全な結界となるのか?」
「すぐにわかる。銀河は『マグネティカ』の磁力帯で形を変えた。連邦域内からここに来るには相当の回り道が必要だ。そんな物好きもいねえだろうけどな」
 最後に大人の声が答えた。
「では――」
「おれたちはこれで辞めさせてもらうぜ。他にやる事があるんでな。せいぜい頑張りな」

 三人の気配は突然に消え、後に残ったレラヴィントフたちは呆然と立ち尽くした。
「何者なんだ、あいつらは」
「プロトアクチアよ。あ奴らはArhatsかもしれない。だとしたらこの計画は成功するぞ。《七聖の座》が光と熱を失い、『銀河の叡智』が起こらなくなったのもArhatsの気まぐれだったとしたら、この創造主の新たな気まぐれは我々にとって大いなるプラスだ」
「本当か。では早速、ここに研究所と栽培場を造らせよう」

 

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