4.7. Report 1 目覚め

Record 3 アンビス

 もう一人の男は蝋燭の炎の下でびしっと仕立てられた背広を身に纏った紳士と話をしていた。二人の前にはグラスに注がれた真っ赤な葡萄酒があった。
「――しかしこんな地下組織が広がっているとは思いませんでした」
「ふふふ、ここだけではないよ。この星には外から来た者が多くいる」
「で、しばらく私をこの場所に置いて頂けますかな?」
「もちろんだ。君のような実力者を待っていたんだよ」
「いえ、この星では他の皆様が先輩でしょうから」
「千年の時を経て復活したにしてはすいぶんと殊勝な発言だ」
「……」

「あの時、君がデルギウスを討ち取っていれば銀河の歴史は大きく変わっていただろうに。実に惜しい事をした」
「それは本心ですか?」
「この星に来た者、少なくともアンビスと呼ばれる者たちは皆、連邦に異を唱える者ばかりだよ。パンクスの連中は知らんがね」
「パンクス……」
「何、向上心を持ち合わせていない取るに足らん奴らだ。それに引き換え我がアンビスはこの国以外でも、米国や欧州列強の各国で要職に就いている者が多い。この星の実質上の支配者になる日は遠くないと言っても過言ではないね」
「では私がアンビスのリーダーとなり、パンクスを滅ぼしても問題はありませんな」
「ふふふ、やっと正体を現したね。その意気だ。君ならすぐにアンビスの実力者になれるよ」
「いえ、私はそのような野望は持ち合わせておりませんので。少し楽をさせて頂けるだけで十分です」
「ほぉ。立派な心がけだ。まあ、互いに詮索し合わないのがルールだがね」

 
 会話が途切れ、男はケイジの事を考えた。
 あの男はパンクスに世話になるだろう。いずれどこかで顔を合わせねばならない――だが再びArhatが止めるのだろうか。

 
 ケイジがパンクスに出会い地下に潜ってから、一月も経たない内に『帝都復興院』が設置された。その組織の末端にある男の名前が小さく記されていた。

 物理学博士 藪小路 了三郎

 
 わしが第一回航海に赴く六年前の話だった。

 

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 ジウランと美夜の日記 (10)

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