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Record 2 パンクス
翌日になり、ようやく火事は収まりつつあった。累々と横たわる死者の山に心を痛めつつ、ケイジは夜間に行動した。
灯りのない真っ暗な公園で人々が肩を寄せ合うようにして俯く中、一人の職人風のいなせな男が懸命に動き回っていた。
物陰からその男を見ていたケイジは、男が一人きりになるのを見計らい、背後から声をかけた。
「お前、この星の人間ではないな?」
声をかけられた男は振り返る事なく陽気な声で答えた。
「おや、あんまりの衝撃であらぬ事を口走ってんじゃねえかい。まあ、無理もねえや」
「とぼけるな。返答次第では首と体が泣き別れになる」
ケイジの声が脅しではないのを感じたのか、男の声が小さくなった。
「……てめえ、『アンビス』か?」
「アンビス……何だ、それは?」
「アンビスを知らねえ。するってえとお前さんはどうやってこの星で生きているんだい?」
男はそう言ってケイジの方に振り向いた。角刈りの頭に情熱的な瞳が光っていた。
気配を戻したケイジの姿を見ても顔色一つ変えなかった。
「ずっと昔にこの星に来たが、長い眠りについていた。この騒ぎで目が覚めたのだ」
「ほお、ワンガミラじゃねえか。だとすりゃ長生きなのも頷けらあ。名前は?」
「……ケイジ」
「出身は?」
「……わからない」
「わからない――記憶がねえのか?」
「そのようだ」
「乗ってきたシップを見ても思い出さねえか。手がかりになる何かあっただろう?」
「何もなかった。ただの木造の船だ」
「……木造か。そりゃずいぶんと昔っていうあんたの話も正しいかもな。かなり怪しいが嘘をついているようには見えねえ。おいらの名はティオータ、《歌の星》の生まれだ。この星では藤太で通ってらあ――何故、おいらがこの星の人間じゃねえとわかった?」
「明け方にまだ燃えている家の中に生身で入っていっただろう」
「見られてたか。だがこの星の人間にだって耐性がある奴がいるかもしれねえぞ」
「そんな可能性については考えてもみなかったが――」
「耐性があるならこんなに被害は出てないって顔だな。その通りだ。どうにか火事は収まったが、帝都はご覧の通り焼け野原、皆、逃げ場所を失って焼け死んじまったよ――おいらのこれも行方知れずになっちまってる」
ティオータはそう言って小指をぴんと跳ね上げた。
「小指がどうかしたか?」
「……めでてえ奴だな。だが今は非常時だ。さすがに薄汚いアンビスも付け込んでくるような真似はしねえだろうから、お前さんを本拠に案内してやるよ」
「アンビス?本拠?」
「その姿では表を歩けねえ。ただでさえ皆、いらいらしてんだ。見つかれば大変な事になるぞ。この星で暮らしていきたきゃ、地下に潜るこったな」
「この星で暮らす?」
「安心しろよ。アンビスにも『パンクス』にも地下には様々な奴らがいる。お前だけが例外という訳じゃないぜ」
「どうせ行く当てもない。その組織とやらに世話になろう」
「よし、決まりだ。一つだけ忠告しておくぜ。この東京市の東半分がパンクスのテリトリー、西半分がアンビスだ。それだけは気に留めとけよ」