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Record 2 『シロンとスフィアン』
一月後、再びテアトルに狂騒が訪れた。
デズモンド・ピアナ原案、ソントン・シャウ原作、オーロイ・コンスタンツェ脚本の舞台『シロンとスフィアン』の初日がやってきたのだ。
一月前の偉業を知った人たちはこの芝居がわしの原案だと聞き、大挙してテアトルに押し掛けた。
ポータバインドを使ってのチケッティングは即時完売、近隣の星からはこの芝居を観るためだけに臨時のシップが運航される騒ぎにまで発展した。
初日の幕が開く前、舞台裏の控室では支配人のホアンが落ち着きなく部屋を歩き回りながら優雅にお茶を飲むオーロイに話しかけた。
「ねえ、オーロイ。アンは上手くやってくれるかな?」
「おや、ホアンらしくもないね。いつもだったらこの大入りにほくほく顔だろうに、心配だなんて」
「いや、あの娘は実の娘みたいに気にかけてるんだよ。何しろ田舎から出てきて、すぐにデズモンドに騙されて冒険に引きずり込まれただろ。碌に芝居の基礎もできてないのに、いきなりの主演は荷が重いんじゃないかなあ」
「ははは、君が金勘定以外の事を考えているのがわかったのは収穫だ。だが安心したまえ。彼女は本物だよ。何しろ本物のシロンに会ったそうだからね」
訳のわからないホアンはきょとんとしていた。
芝居の幕が開いた。
わしは舞台袖から見ていたが、アンの演技、いや、あれはアンではなかった、シロンがアンの体を借りて動き、話していた。
当然の如く、芝居の終わりにはスタンディング・オベーションが起こった。
アンフィテアトルの口やかましい批評家たちも名作と認めざるを得ないだろう。
しかしわしは心配でもあった。演技であって演技でないアンの立ち振る舞い、彼女は女優としてこれ以上ないスタートを切ったが、果たして大成するだろうか。
まあいい。わしは芝居の専門家じゃない。今日は彼女の晴れの門出を祝おう、わしも舞台袖で必死に拍手を繰り返した。