4.5. Report 2 争いの地

Record 3 雷獣の語り

 わしらはニトの町を出て再び雷獣の森に向かった。
「なあ、ロイ」
 わしは一言もしゃべらず、何かを考え込むロイに話しかけた。
「お前、家族は?」
「あ、はい。両親はすでになく許嫁がおります」
「ファンデザンデ家ってのは名門みてえじゃねえか。早く跡継ぎを作った方がいいぜ」
「はい。ですがやらねばならない事が見つかったので、そのうち」
「まあ、好きにしな」

 
 わしらが森に戻ると、切り株にバスキアが座り傍らで雷獣が寝そべって話を聞いていた。
「おお、バスキア。食い殺されなかったな」
 わしが言うと雷獣が大あくびをしながら答えた。
「口が悪いな。まあ、お前らやこのあんちゃんの事は色々聞かせてもらった――ところで教会はどうだった?」
 わしは神父との話を雷獣に伝え、話が終わると雷獣が言った。
「で、おめえらは剣を抜かなかったんだな?」
「ああ、俺にゃあ、エクシロンの代わりは務まらねえ。ロイはどう思ってるか知らねえがな」
「ふん、それじゃあ約束だからな。こっちが話してやるぜ――

 

【雷獣の回想:エクシロン】

 ――エクシロンに初めて会ったのは《古の世界》の『風穴島』近くの海岸だった。邪龍バトンデーグに襲われ、瀕死の状態だったおれを介抱してくれたのが付き合うきっかけだった。
 その後サフィと出会った。サフィはエクシロンの力を解放して、おれの体を自由に盾の中に出入りできるようにしてくれた。
 結局、龍が復活し、Arhatアーナトスリが《古の世界》をぶっ壊したため、皆、安住の地を求めて放浪の旅に出る事になった。

 アダニアは《巨大な星》に暮らした。プララトスっていう弟子もできて着実にサフィの教えを広めたろう。
 何、アダニアはどんな奴だったかって――そうだな、堅物で面白味のない男ってのが一般の見方だが、奴は人知れず苦悩してた。いつだったか、おれにそっと打ち明けてくれたが、好きな女を守れずに死なせてしまったんだそうだ。だから信仰に人生を賭けるんだと。人間臭えところもある、大した男だ。

 ウシュケーは《祈りの星》に行った。そこで殺される危険をものともせずバルジ教を興したそうだ。こりゃまた立派じゃねえか。

 ニライは《流浪の星》、移住者の生活を安定させた後で隠遁生活に入ったって聞いた。
 行ってきたばかりのおめえらの方が詳しいかもな。

 ルンビアは《虚栄の星》、様々な迫害に遭ったって聞くが、どうにか銀河一の大都市の礎を築いた。

 そしてエクシロンだ。おれたちはこの星にやってきた。この星は空に浮かぶ大陸と下にある大陸があった。エクシロンは上の大陸の争いを収め、大陸を大地に降ろそうとしたんだが、Arhatバノコと一悶着あった。
 エクシロンは自分の命と引き換えに大陸を大地に降ろし、星に平和をもたらした。
 そして伝説の英雄となった――

 

「ざっとこんな話だ」
「エクシロンは死んじまったのかい?」
 わしが尋ねると雷獣はにやりと笑った。
「肉体はとっくに滅んじまってるだろうな。だが今でも自分の意志を継いでくれる人間を探してるって考えるのが正しい」
「どこにいるんだ?」
「知らねえな。その時が来るまでは出てこないんじゃねえか」
「Arhatバノコは何が気に入らなかったんだ?」
「知るかよ。バノコは気まぐれなArhatsの中でも特に気まぐれな天才だって話だ。気に入らなかったんじゃなくてエクシロンを気に入って手元に置いときたくなったんだろう」
「雷獣、お前はこれからどうするんだ?」とわしは尋ねた。
「リンドとの約束があるからな。剣を抜ける奴を待つよ。でも今日みてえにその時でもねえのにお前らに起こされちまったから、そう遠い先じゃねえかもな」
「俺もそう思う――じゃあ行くか」

 
 わしが立ち上がるとバスキアが唐突にわしの前に立った。
「デズモンド、ちょっといいか。私はこの星に残ろうと思う」
「はあ、何言ってんだ。残って何するんだよ」
「この森にもっと触れ、狩人としての技を磨きたい――それにロイ、君にも考えがあるんだろ」
 バスキアに話を振られたロイは少し口ごもりながら答えた。
「ああ、私もリンドの末裔としてこの星のためにできる事があるんじゃないかと思っている。私は平和のために立ち上がる」
「という訳だ、デズモンド。私はロイを助けたい」

 わしはバスキアの突然の申し出に困惑した。
「お前、アラリアの調査はいいのか?」
「それはミネルバに任せるよ。私はアラリアの戦士。戦うのが本分だ」
「偉そうな事言いやがって。俺と同じで戦うのが好きなだけじゃねえか」
「デズモンドが教えてくれたんじゃないか」
「違えねえ」とわしは言ってから雷獣を見た。「雷獣、これでいいか?」
「おれに聞いたって知らねえよ。好きにすりゃいい。リンドの末裔だからってうまくいくとも限らねえ」
「お前は助けてあげないのか?」
「言ったろう。おれは約束の日までは眠りにつくんだ。手助けなんてしねえよ」
「ふーん、わかったよ。じゃあバスキア、ここでお別れだ。記録だけは残してくれよな。ロイ、頑張れよ」
 わしらはその晩、森で夜を明かした。

 

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