4.3. Report 1 眠り姫の伝説

Record 4 眠る王宮

 わしらのシップは《海の星》の上空に着いた。機内では珍しくノータが声を荒げていた。怒りの矛先はわしだった。
「大将、ちゃんと聞いてるんですか」
「ああ、聞いてるよ」
「《不毛の星》みたいに僕たちが金縛りに遭って動けなくなる事があるかもしれないんです。そんな時は大将がポータバインドを起動して記録を取ってくれなきゃ困るんです」
「わかってるよ。だから言ったじゃねえか。星の奥には謎の遺跡があって、残り六ヶ所の遺跡を見つけてくりゃ、邪蛇が秘密を教えてくれるんだとよ」
「なあ、デズモンド。本当に六ヶ所――つまり遺跡はナインライブズに関係しているのか?」
 ソントンの質問にわしは自信ありげに大きく頷いた。
「ああ、まず間違いねえ。銀河の最大の謎、ナインライブズの秘密がすぐそこにぶら下がってらあ」

「ねえ、ナインライブズって何?」
 アンの質問だった。
「何だよ、アン。わからねえで叫んでたのか。ナインライブズってのはな、この銀河創造の際に溜まったエネルギーの塊だって言う奴もいるし、九つの頭を持ったでっかい蛇の姿をしていて世界を焼き払うって信じてる奴もいる。まだこの世に現れちゃいない訳のわからない恐ろしいもんなんだよ。バルジ教の教義ではナインライブズが出現して銀河を浄化するんだ」
「ああ、バルジ教なら聞いた事があるわ」
「バルジ教のマークは九つの頭を持った蛇のような生き物だ。九って数は大事なんだ」
「それで遺跡も全部で九か所?」
「と、俺は睨んでる」
「あと六つくらいすぐに見つかるんじゃないの?」
「でもな、銀河のはずれの星にあったりしてみろ。そうは簡単には見つからねえ――だが俺はこれから銀河のあらゆる星々を回る人間だ。俺が発見できなきゃ、誰にも見つける事なんかできねえさ」
「ふーん、大した自信だこと。この星にもあるのかしら?」
「下を見てみろよ。見渡す限りの海、地面なんかお情け程度にあるだけだ。可能性は低い」
「早速降りてみましょうよ」

 
 シップは小さな島のような陸地に着陸した。
「さてと、この星を選んだ理由はブッソンとの会話にあるんだ。奴の話が本当なら、ここの海の底には珊瑚姫が眠っているらしい」
「おお、デズモンド」
 ソントンが感慨に耐えないような表情で言った。
「いい響きだな。さしずめ『眠り姫の伝説』とでも言えばいいのかな。創作意欲が掻き立てられるよ」
「だけど珊瑚姫が眠りから覚めなきゃ、お話にならねえぜ――さて、誰が行くか、俺と転地とアンでいいかな。お前ら、水の中でも平気だよな?」
 転地とアンは頷いた。
「よっしゃ、ソントン、ノータ。吉報を期待しててくれよ」

 
 わしらは濃い青を湛えた海の中に潜った。水深は三十メートルくらいだろうか、圧を調整しながら慎重に海底に降り立って辺りを見回した。
「デズモンド、何かがやってくるようですね」
 転地の指差す先には、褐色の塊がわさわさと動きながらこちらに向かってくるのが見えた。
「ありゃあ、甲殻類、俺の大好物だ」
「あたしは苦手。エビとかカニでしょ?」
「アンはまだ子供だな。塩茹でしたやつを肴に酒を飲むと堪えられないんだよ」
「お二人とも。そんな悠長な状況ではないようですよ」
 転地が再び指を差す先、こちらに向かってくるのは確かにエビの一団だったが手には槍を携えていた。
「デズモンド、どうすんのよ」
「だから言ったろ。俺の大好物だって」

 わしはエビの兵士に向かって突進した。それを見た転地も慌てて追いかけた。
 先頭のエビの兵士が槍を構えるより前に、兵士の懐に飛び込んで右の拳を振るった。先頭の兵士が吹き飛ばされ、背後にいた数名もあおりを食って後方に飛んでいった。
 わしは容赦なく左右の拳を振り回した。兵士たちは隊列を崩し、目の前に道が開けた。
「おい、お前ら、早く来いよ」
 追いついた転地も剣を振るい、遅れてくるアンのために道を切り開いた。
「こいつら、何かを守ってるんだ――よし、このまま、まっすぐ進むぞ」
 楽しそうに兵士たちを小突き回すわしを見て転地とアンは苦笑いした。

 
 海底を進むわしらの前に石造りの小さな建物が見えた。
「ここに珊瑚姫が眠ってそうだな」
 辺りを見回したが、崖をくり抜くように造られた建物にはどこにも入口がないようだった。
「おい、アン。どっかに入口がねえか探してみてくれねえか。俺と転地はまだエビの相手をしなきゃならん」
 追い払ったと思った兵士たちが背後に迫った。再び転地とわしは兵士たちに突っ込んで乱闘が始まった。
 その間にアンは王宮の壁の石を一つ一つ慎重に調べた。

 
「おい、アン。まだ見つからねえか?」
「まだよ」
「こっちはビュッフェみてえになってんだ。倒しても倒しても湧いてきやがる。キリがねえから早くしてくれよ」
「待ちなさいよ。後十五分くらいは遊んでなさいよ」

 
 十五分後、アンは外壁をすっかり調べ終わった。
「デズモンド。おかしいわ。入口の取っ掛かりすら見当たらない」
「何だよ、そりゃ。じゃあこれは住居じゃなくて、石棺か?」
「デズモンド、きっかけがないと扉は開かないのでは?」
 鞘に納めたままの剣を振るう転地が言った。
「なるほど。きっかけ……つまりは珊瑚が目覚める事だな」
「えっ、と言う事は珊瑚が自ら扉を閉ざした?」
「わからん。だがブッソンによればもの凄い力の持ち主だったらしいからな」
「それだけの能力者であればすぐにでも目覚めるのではないですか。目覚めない理由がわかりません」
「俺に聞かれても困るぜ――まあ、まだその時じゃねえんだろうな」
「それはいつ?」
「さあな。でも俺たちがここまで近付いたって事は目覚めの時も近いのかもしれねえぞ――さあ、もうエビ、カニは当分見るのもいやだ。転地、アン、あきらめて引き上げよう」

 

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 Report 2 精霊四大候

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