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Record 2 《武の星》の歴史
ここで《武の星》と《将の星》の歴史について簡単に触れておこう。
《武の星》はご存じ公孫威徳が《念の星》を離れ、新たに拓いた星である。
威徳が何故、その星に眼をつけたのかは今となっては知る由もないが、推測では『精霊の通り道』、これはわしが勝手に付けた呼び名で《火山の星》から《精霊のコロニー》、《灼熱の星》に至るほぼ直線の道のりを指しているんだが、これに比較的近い場所に位置していたからだと踏んでいる。
自然との合一に憧れを抱いた威徳は精霊にその理想形を見出し、少しでも近い場所で精霊の神秘に触れようとしたんだろう。
《武の星》で五元という考えを発見するに至ったのだから、この選択は間違いではなかったと言える。
だがそこに至る道のりは険しかった。威徳が単身乗り込んだ時代に星を支配していたのはガイサイと呼ばれるバカでかい犬のような生き物だった。ガイサイは人語を解し、恐ろしくずる賢く、素早かった。
威徳は死闘の末にこれを仕留めたが、その戦いの際、腕に受けた傷が元で左腕を斬り落とさねばならなかった。
威徳はガイサイの支配地を都と定め、開都と名付けた。
四季それぞれの彩に溢れ、自然豊かな開都は瞬く間に発展を遂げ、威徳の目指す五元もまた大きく発展する事となった。
五元をさらに高めるために『五元楼』と呼ばれる属性別の修行場、そして肉体が滅びた後の精神の拠り所となる長老殿が開都の中心に建てられた。
五元の考えの中で最も重要だったのは風火地水、そして金だった。特に金の属性は稀にこの世に現れるだけで、現れた場合は王の資質を持つと言われた。
威徳から始まる公孫家にも、又、《武の星》の住民にも長い間、金の属性を持つ者は現れなかったが、ついに附馬金槍という若者が登場した。
ただちに《武の星》の長老たちは公孫雪花と附馬金槍の縁組を行い、金槍に同じ星団の《将の星》を統治させた。
ここに銀河でも一、二の武力を誇る《武の星》、《将の星》の体制が整ったのだ。
ちなみに金の属性を持った附馬金槍の王の資質とは何だったのか?
金槍は星を興し、後継者を決めるとすぐに謎の失踪を遂げたためにその全容を知る者はほとんどいないが、一説では『全てを見る』、つまり『パン・オプティコン』の持ち主だったと言われている。
己の能力が故に金槍は失踪を遂げたと言われているが、その真相は明らかになっていない。
更に金槍に関してはもう一つ、妙な噂がある。
金槍は未だ死んでおらず、銀河の危急存亡の時には《将の星》に対して”金槍令”と呼ばれる命を発する。その命令は長老殿の決定よりも重たいものだが、未だその命が発された事はない。