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Record 2 ホーリィプレイス
車両が着いたのはホーリィプレイスだった。けばけばしい街を抜けてナーマッドラグと呼ばれる一際古い地区に向かった。
路地裏の一軒の小ざっぱりとした家に入って、わしは大声を上げた。
「よお、デズモンドが出発のあいさつに来たぜ」
しばらくすると一人の太った女性が杖をつきながら現れた。女性は「よっこらしょ」と言いながらテラスの椅子に腰をかけた。
「わざわざ来なくても良かったのに」
「マザー、そんな事言うなよ。パトロンの頼みをまだ聞いちゃいねえんだ。何をして欲しい。どっかで宝石でも拾えばいいか?」
「あたしゃ、あんたに何も期待しちゃいないよ。まあ、無事に旅をしとくれ――それにしても頼りない面子だねえ。こんな面々で大丈夫かい?」
「ん、ああ、そうだな。マザー、この一番若いのは乗員じゃねえんだ。こいつは《鉄の星》の王、トーグル・センテニアだ」
「トーグルと申します」
「ああ、デルギウスに似てるって言えば似てるねえ」
「ご先祖に会った事があるのですか――しかし、それはもう一千年近くも昔の事ではありませんか」
「そうなるかねえ。まあ、会ったんだから仕方ないよ」
「先祖はどういう人物でしたか?」
「そんなの一言では言えないよ。まあ、あんたの方が、線が細い。あんたは学者だね」
「そうかもしれません」
「道を踏み外さないこったね」
「……それは?」
「気にしないでいいよ。で、あんた、結婚は?」
「許嫁はおりますが、まだ」
「頑張りな」
「は、はい」
わしは何となく奇妙な会話だなと思いつつ本題に戻った。
「じゃあマザー。本当に何も望みはねえんだな。俺たちゃ、出発するぜ」
「ああ、行っといで。でも少しは腕の立つのを連れてった方がいいよ。あんた、この後も旅を続けたいんだろ?」
「考えとく」
「ちょいとお待ちよ。餞別渡すの忘れてたよ。誰か奥に行ってベッドの上の本を取ってきてくれないかい」
すぐにノータが走り出し、本を持って戻った。
「あいよ。これ」
「何の本だい、こりゃ」
「『万物誌』っていう本さ。これを見りゃ銀河のあらゆる種族の事がわかるんだよ」
「ふむ、『万物誌』、聞いた事がありませんな」
渡された本を覗き込みながらソントンが言った。
「そりゃそうだよ。この銀河の人間が作ったんじゃないからね」
「……と言う事は創造主の?」
「さあ、知らないけどね。役には立つと思うよ」
「ありがとよ、マザー。じゃあ行ってくらあ」
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