4.1. Report 2 連邦の発展

Record 3 文化の成熟

 この時代の最大の特徴は、それまで星単位で発展していた文化が連邦に加盟する星々の共通文化になった事だろう。
 歴史、政治は言うに及ばず、文学、音楽、スポーツに至るまで、連邦内のどの星に行っても共有し合えるというのはそれまでありそうでなかった事だった。
 ここでは独断が入るが文化の諸側面を見ていこう。
 

音楽

 芸術において初めて星をまたがる人気となったのは音楽の分野であった。
 星間コンピューティングが浸透し、大型の機器ではあったが、星々のコミュニケーションが可能になるとすぐに爆発的なヒット曲が誕生した。
 全く無名の歌姫、ニオブラがアカペラで歌い上げる『Life』という名のバラードは、瞬く間に連邦に加盟する星々を駆け巡った。
 こうして星を越えた音楽が盛んになり、偉大なアーティストも誕生する。
 名前を挙げていけばきりがないが一人だけ、友人でもあるユサクリスを紹介しておこう。

 ユサクリスは《花の星》で生まれた。パラディス家と遠縁にあたる貴族の家柄らしかった。
 どうしてもピアニストとして独り立ちしたかった彼は、連邦大学アンフィテアトル校に進学し、夜は街の酒場でピアノを弾く生活を続けながら機会を窺った。

 だが彼を待っていたのはピアニストとしての栄光ではなかった。
 偶然知り合った『ル・テアトル』の支配人が、新たに掛ける作品の舞台音楽を担当していた人物が急逝したため、ユサクリスに一週間で十五曲書き上げるように依頼したのがきっかけだった。

 興行が始まると、芝居の内容よりもその音楽が話題になった。
 口さがない批評家たちもこぞってユサクリスの作品を絶賛し、彼は一躍、アンフィテアトルの有名人となった。

 以来、彼は作曲に専念するようになった。
 次々に名曲を発表し、『ピアノ協奏曲6番:熱情』は彼の名声を決定的なものとする名曲となった。

 その後、少し年の離れた『ル・テアトル』の舞台演出家、オーロイ・コンスタンツェ、作家のソントン・シャウと共同で『リーバルンナラシャナ』、『シロンスフィアン』といった演劇の劇中音楽を担当し、その名を歴史に残す事となった。

 

演劇

 離れた場所にいても簡単につながる事が可能になったとはいえ、直接のコミュニケーションの重要さは失われていない。
 演劇の分野において、銀河の歴史に基づいた『リーバルンとナラシャナ』が爆発的人気を博したのは偶然ではない。

 ポータバインドが開発されるまではロゼッタの販売枚数が人気の目安となっていたが、『リーバルンとナラシャナ』がロゼッタ媒体であったなら百億単位の売上だったのではないだろうか。
 実際にはポータバインドのアクセス数がその十倍の数値を叩き出したそうだ。

 

文学

 やはり、我が友人、ソントン・シャウの名を挙げないといけない。
 上述の『リーバルンとナラシャナ』以外に、『シロンとスフィアン』、『孤独の王』、『白き翼と黒き翼』、『海底の眠り姫』、まあ、ずいぶんと書いているものだ。

 

スポーツ

 何と言ってもスペースボールの隆盛に尽きるだろう。このスポーツは元々、連邦大学アンフィテアトル校の学生たちが週末のモータータウンとの試合に向けてフットボールの練習中に起こった。
 その最中に、グート・ターミンというフォワードの選手がいきなり空に舞った。そしてはるか空中に上がったボールをゴールに蹴り込んだのだ。
 このプレーは大変に物議を醸したが、ルール違反ではないので、むしろ週末の試合での秘密兵器になるだろうと皆で笑い合った。

 そしてモータータウンとの試合の前半終了寸前、いきなりターミンの技が炸裂した。一歩も動けないキーパー、騒然とする観客、猛烈に抗議する相手選手たち、だが審判団は反則を認めなかった。
 ハーフタイムが終わり、後半が開始した。またしても高く放り上げられたボールをターミンが空中でトラップし、そのままゴールに叩き込んだ。
 ここで相手側が選手交替をし、ディフェンスの選手を替えた。
 三度、ターミンにチャンスが回ってきた。地上ではとても触れないような高く上がったボールをターミンがトラップし、シュート体勢に入った。
 次の瞬間、驚くべき事が起こった。交替で入った相手のディフェンダーも空に舞い上がり、ターミンのシュートをブロックしたのだった。
 観客は沈黙の後、今度は狂喜乱舞した。あっけにとられるターミンとアンフィテアトルの選手を尻目に、地面に落ちたボールは相手に渡り、やすやすとゴールが決まった。
 審判団は試合を中断して協議に入った。結論はターミンともう一人の空を飛んだ選手が退場、試合は従来通りの地上戦として続行された。

 試合後、グランドには両チームの選手、審判団、それに観客も皆残って討論会が行われた。
 これは半ば予想された事態であった。叡智の発現以降、空を飛べる者の人数は増加していた。だが従来のフットボールにこれを取り入れるには問題があった。
 であれば、いっそのこと新しいスポーツとして独立させてしまおうという結論になった。ここに『スペースボール』という名前と『スペースボール設立委員会』が設立した。
 会長にはターミンが選出され、人数やルールが決められた。

 数カ月後、再びモータータウンのグランドでの試合が行われ、集まった観客は目を見張った。
 最新の技術により、双方のゴールポストを空中に浮かせていたのだ。このゴールの高さはボールの支配率に応じて互いに上下した。ボールを長い時間保持していれば相手のゴールを下げる事ができ、その分ゴールを狙う事が容易になるのだった。
 このゲームはすぐに《巨大な星》だけでなく、連邦中を熱狂させ、その年の終わりにはスペースボールのリーグが成立した。

 
 以下が創設時のチームである。

 スポルティバ・ボヴァリー (オアシスの星、ボヴァリー)
 ロイヤル・プラ      (鉄の星、プラ)
 ヌエヴァポルト・SC   (巨大な星、ヌエヴァポルト)
 プララット        (巨大な星、ヌエヴァポルト)
 ダーラン・シティ     (巨大な星、ダーラン)
 AT・ウニベルシテ    (巨大な星、アンフィテアトル)
 SCダレン        (商人の星、ダレン)
 ピエニオス        (巨大な星、モータータウン)
 ナーマッドラガー     (巨大な星、ホーリィプレイス)
 7・セイジズ       (七聖の座デルギウス

 
 そしてメディア『スポーツ・ヴィヴィッド』による最新のランキングが以下の通りだ。

 1.ロイヤル・プラ          (鉄の星、プラ)
 2.SCダレン            (商人の星、ダレン)
 3.ダグランド・オールド・ボーイズ  (巨大な星、ダグランド) 
 4.ヌエヴァポルト・SC       (巨大な星、ヌエヴァポルト)
 5.ダーラン・シティ         (巨大な星、ダーラン)
 6.7・セイジズ           (七聖の座、デルギウス)
 7.ダレン・スパークス        (商人の星、ダレン)
 8.ダーラン・U           (巨大な星、ダーラン)
 9.セイント・ルスコ         (巨大な星、ホーリィプレイス)
10.ホッポイン・SV         (巨大な星、ホーリィプレイス)
11.キリバーン            (巨大な星、ホーリィプレイス)
12.セイント・ノリズ         (巨大な星、ホーリィプレイス)
13.リバーサイド・SC        (巨大な星、ヌエヴァポルト)
14.スープリーム・ダレン       (商人の星、ダレン)
15.ピエニオス            (巨大な星、モータータウン)
16.スポルティバ・ボヴァリー     (オアシスの星、ボヴァリー)

 愛すべき我が故郷のクラブが最下位で入れ替え戦ギリギリの位置とは。

 

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