4.1. Report 2 連邦の発展

Record 2 新しい学問の発展

 星同士が結び付く事によって生じる様々な事象、問題、から極々些細な発見に至るまであらゆる事が新たな学問のジャンルとして確立されたのがこの時代の特徴だ。
 一時は全てに『星間』とか『比較』とかいう言葉が付けられて、「おいおい、本当か」と茶々を入れたくなる状況だった。
 例えば「あの星の料理とこの星の料理はこう違う」となればそれは「星間ガストロノミー」だし、ゴシップ報道や噂話の規模がでかいものは「惑星間コミュニケーション」と呼ばれたりした。

 わしは流行りに乗って学問を新しい呼び名で呼ぶ風潮があまり好きではなかったし、自分の研究を「銀河歴史学」、「星間歴史学」、「冒険歴史学」……流行りの名前に変えるつもりもなかった。やってる事はただの「歴史学」だ。

 だがそんな中でも幾つかの新分野は紹介しておかなければならない。

 

星間統治論

 その代表が「星間統治論」、この先の文章はわしの航海のクルーだった青年バスキア・ローンの受け売りで書いている。

 星間統治論の起源はデルギウスが連邦大学を各地に設立した頃に遡る。
 銀河連邦は銀河の支配ではなく、共に銀河の叡智を享受しようという思想の下に成立した。

 このまま連邦の影響が増していけば、より広範囲の星々がそのシンパとなるがその時にタイムラグがあってもいいものか。
 《虚栄の星》を例に取ってみよう。
 連邦の中心から遠く離れたこの星では叡智を享受したとしても、中央とは異なる形で発展するケースが多い。
 結局、距離が離れているために中央の意図は速やかに伝わらず(ポータバインド発展のようにそれが幸運をもたらす場合もあるが)、共に叡智を享受する機会を逸しているのではないか。

 若い世代はもっと過激だった。
 将来的には緩やかな連携ではなく、連邦による星々の直接的支配という形態に移行せざるをえない。
 その際に支配者の意志が伝わるのに数か月かかったなら、これを果たして支配と呼べるのだろうか。

 
 この問題に取り組んだ学者たちは『統治の三原則』と呼ばれるものを提唱した。
 それは
 一.物理的距離の克服
 一.通信の即時化
 一.意識の共有化
 から成っている。

 『物理的距離の克服』とは具体的にはより高性能なシップの開発なのだろうが、それには限界がある。どこかの夢物語のように次元をジャンプして瞬間移動する術でも確立されれば物理的距離には意味がなくなるのだが、それにはこの銀河の人々が新たな次元を完全にコントロールできるステージに進化する必要があり、手に余る内は下手に色気を出さない方が賢明だ。

 『通信の即時化』、これはまさにポータバインドによって実現されようとしている。少なくとも統治者の言葉は瞬時に銀河を駆け抜ける事が可能なのだ。

 最後の『意識の共有化』、これをどうすれば現実のもににできるのかはよくわからない。一説には《武の星》の長老殿のように肉体が滅びた後も精神だけは生き続けて、それがネットワークを構築していくらしいが、ちんぷんかんぷんである。

 

都市様相学

 こちらも一時期持て囃された学問だが、それなりに興味深い。

 一口に言えば、銀河の叡智を享受した銀河の星々の都市の姿の違いを分類し、考察しようというものだ.
 こんなものを明確化した所で何の役にも立たないと言う人がいるのは確かなので、心に余裕のある人だけが頭の片隅に置いておけばいい。

 提唱者は聖ルンビアの計画した《虚栄の星》のヴァニティポリスに対する思い入れが強く、それ以外の意見は一切聞こうとしない極端な性格の持ち主だったようで、その事からもこの学問があまり受け入れられなかったのが伝わってくる。

 
 彼によれば、究極の都市はメトロポリス、それは《虚栄の星》のヴァニティポリスで実現されている。
 綿密な計画によって、古代、中世、現代の面影を残しつつも、最新の都市の様相を呈している唯一無二の存在なのだそうだ。
 多くの大都市は最先端の未来志向に突っ走ってしまうか、その反動で自然との調和だけに注力してしまうのだが、ヴァニティポリスだけは例外らしい。
 ちなみに彼がこき下ろした他の都市形態は

 エッジ・シティ:最先端の未来都市。最先端と言えば聞こえはいいが、趣に欠ける。
 【代表的都市】巨大な星ヌエヴァポルト
        商人の星ダレン

 他の都市形態についてもこんな調子である。

 

 エコシステム:自然との調和に重きを置いた都市。全ての人間がこういうテイストを好きという訳ではない。
 【代表的都市】享楽の星チオニ
        武の星開都

 ゴシック・フューチャー:中世で発展を止めたまま未来技術を享受する全てにおいて中途半端な都市。
 【代表的都市】囁きの星全般

 最早、言いがかりだ。

 グロウン・メディーヴァル:本来であれば未来都市になってはいけない形態。銀河の中心にあったという幸運だけで存在を許されている。
 【代表的都市】鉄の星プラ

 スチームパンク:これを未来都市と呼んではいけない。その証拠に都市の名前すら付いていない。
 【代表的都市】ブリキの星

 カオティック:ここまでいくと逆に清々しい。混沌の極みである。ここを支配できる者こそが真の為政者なのかもしれない。
 【代表的都市】古城の星

 

歴史

 最後にわしが関わっている最も発展が遅れた分野、歴史についても触れておこう。
 それぞれの星において星の歴史を調査する行為は行われるが、銀河全体の歴史となると皆目見当がつかないというのが正直な所だった。
 何しろこれだけ広大な銀河の歴史を紐解くなど土台無理な話なのだ。

 しかしこの分野において一人の天才が出現した。
 それは誰あろう、このわし、デズモンド・ピアナだ。

 

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