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Record 1 救済
「デズモンド、次の星は?」
ソントンの問いかけにわしはあくびをしながら答えた。
「《灼熱の星》だ。精霊四大候の内、二人まで会ったんだ。後の二人にも会っておこうぜ。こんな機会は又とねえ」
「しかし《灼熱の星》なのに『豪雨候』とはどういう理屈だろうな?」
「さあな。会えばわかるんじゃねえか」
《灼熱の星》が近くなり、わしが操縦席で見慣れない機器を操作しているのに気付いたソントンが尋ねた。
「なあ、デズ。この旅が始まってからずっと気になっていたが、星が近くになると必ずポータバインドを触っている。一体何をしているんだい?」
「ああ、これか。実はよ、トーグルに頼まれたんだ。行った星の正確な座標を記録してくれってな。だからこの機械で星の位置を連邦の『ORPHAN』に送信してる」
「なるほど。ここいら辺りの星の調査など容易く行えないからな。連邦もずいぶんちゃっかりしているな」
「いいじゃねえか。スポンサーがいるから旅を続けられる。持ちつ持たれつだ」
《灼熱の星》が見えた。都だろうか、銀色に輝く巨大なプレートがほぼ大陸全体を覆っていた。
「デズモンド」と操縦席にノータがやってきて言った。「外の気温が大変な事になっている。あの屋根の中に入らないと丸焦げになる」
「なるほど。灼熱とはよく言ったもんだ。じゃあ中に入らせてもらおうぜ」
シップを屋根の下に滑り込ませ、ポートを探して着陸するとすぐに人が飛んできた。
「これは珍しい。マーチャントシップ以外の……どちらから来られたのですか?」
ポートの係官らしき男が声をかけた。
「ああ、ちょっくら連邦の方からね」
「連邦から人が来られるなど初めてですな」
「まあ、『豪雨候』に挨拶しようと思ってよ」
「それはわざわざ。ではファイアストームの下にご案内致しましょう」
屋根の下は空調がよく効いていてひんやりと涼しかった。大きな銀色の屋根を支えている低い建物の間を王宮まで歩いた。
「これはようこそお越し下さった。私がファイアストーム、又の名を『豪雨候』と申します」
玉座に座った体格の良い日焼けした男が笑顔を見せた。
「半分銀河連邦の名代、半分は銀河の歴史を紐解くために旅をしている。デズモンド・ピアナってんだ。よろしく」
わしはソントン、ノータ、転地、アンを順番に紹介した。
「しかし貴殿らはよく銀傘の下に入り込もうと思い立ちましたな。外でシップを降りて、そのまま帰らぬ人となってしまう事故が多いと言うのに」
「だってこの星は《灼熱の星》だろ」
「ははは、その通りです。そして私は『豪雨候』――こう呼ばれるようになったのには長い歴史があるのですよ」
「へえ」
「元々、この星には人など住めませんでした。だが私は火と風の精霊ですから何ともなかった。苦労してこの銀の屋根を設置した訳です」
「なるほど」
「それだけではだめでした。圧倒的に地表の水分が足りなかったのです。そこで私は人工降雨装置を作り、雨を降らせ続けた。それで初めて大地が潤い、人が住める下地が出来上がったのです」
「ははあん、それで『豪雨候』なんだ」
「その通りです。今でも一日に一回、雨を降らせないといけません。そうしないとこの星はすぐに干上がってしまう。人が暮らしていく事ができないのです」
「うーん、精霊四大候ってのは皆、偉いなあ。『開拓候』も大したもんだったけどあんたもすげえや」
「おお、フロストヒーブに会われましたか。元気にしていましたか?」
「ああ、元気だったぜ。『錬金候』は変わり者だったけどな」
「何と――ジュヒョウにも会ったのですか?」
「海賊退治の最中に会ったんだけどな」
「――ジュヒョウには頭を痛めております」
「でもあんたみてえなしっかり者がいるんなら精霊は心配ねえ。ここに住んでる人間だって皆、あんたの凄さがわかってら」
「だといいですな。私は彼らがこのような劣悪な環境に住もうとしてくれている事自体が愛おしいのですよ」
「俺は連邦を代表して来てる訳じゃねえから勧誘とかする立場にはねえが、この星は叡智を受ける資格があるんじゃねえかい?」
「そう言って頂けると――だが私たちは当分地道に生きていきます。連邦に加盟するのはまだ先でもいい」
「もっともだ。連邦に加盟するだけが正しい道じゃねえからな」
「デズモンド殿は学者とは思えないきっぷの良さですな」
「口が悪くてすまねえな」
「いや、あなたのような方であれば偏見のない銀河の歴史を紡いで下さるでしょう」