目次
3 壊れるローチェ
書斎に立っていたノカーノは我に返り、再び中庭に戻った。すでに夜が明けようとしていた。
「クシャーナ、リリア、空海……皆」
「……あいててて」
初めにクシャーナが、続いてリリアが、そして最後に空海が起き上がった。
「こちらの方が瞬時に結界を張って下さったおかげで衝撃が最小限で済んだよ」
クシャーナは空海の方を向いて笑った。
「そうだったのか。空海、ありがとう」
「ところでヤバパーズは?」
「消滅させた……はずだ。手ごたえがあった――それにしてもクシャーナ、リリア、いつからこの星に来ていたんだい?」
「さっきも言った通り、ヤバパーズがこの星に潜伏しているのは前からわかっていたのだ。ほら、こいつのシップが出入りをしていたからな」
クシャーナはそう言って、動かなくなったノームバックの屍を顎でしゃくって示した。
「後はいつ乗り込むかの問題だったのよ。そしたらあんたがすでに接触してるじゃないの。だからそれに便乗しようと思ってね」
「私の場合は……別件だけどね」
「それは聞かないでおこう。私たちはノームバックとヤバパーズを倒せた、それで満足だ」
クシャーナとリリアは仲良く手を繋ぎながら去っていった。
「じゃあ空海、行こうか。宿坊が心配だ」
「うむ。私が意識を失ってからヤパラムを倒すまでそれほど間がなかったから心配はしていないが、何かが起こっていないとも限らん――ところでこの化け物はどうする?」
空海は塀の隅でおとなしくなっている大きな白いむく犬を指差した。
「ヌエか……ここに置いておいては又、いつ暴れ出すとも限らない。一緒に連れて行こう。どうやら私を恐がっているみたいだし」
「そうしよう。実はこいつ、ヤパラムの剣をぱくっと飲み込んじまったんだ。全く、とんだ化け物だよ」
ヌエを引き連れて屋敷を出ようとすると、屋敷の奥からけたたましい声がした。
「ノカーノ、まだヤパラムが?」
「いや、そんなはずはない」
ノカーノは再び屋敷に戻った。ヤパラムが消滅した部屋まで戻ると鉄の鳥かごの中に以前助けた大きな白いオウムがいた。声の主はこのオウムだった。
「お前か。お前も飼い主がいなくなってしまったな」
ノカーノは鳥かごを庭に持って出て、かごを開けた。オウムは嬉しそうに空に舞い上がったが、すぐにノカーノの肩に留まった。
「おいおい、これではまるで動物園だ」
「動物に好かれるようだな」
「仕方ない。こいつも連れて行こう」
ノカーノと空海はオウムとヌエを連れて夜明けの都を急いだ。宿坊に着くとローチェは空海が張った結界の中ですやすやと眠っていた。
「ひとまず安心だ。戒めが解けていればいいのだが」
「早く出発しよう。西の山に船を隠してあるんだろう」
「ああ、麓まで飛んでいく。ローチェを起こさないと」
ノカーノはローチェを優しく揺り起こした。目覚めたローチェの頬には生気が戻っていた。
「良かった。無事だったよう――」
ローチェの顔を見つめたノカーノは言葉を止めた。その瞳からは完全に知性の輝きが失われていた。
「これはこれで大変だぞ」
ノカーノは独り言を言って旅支度を始めた。
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