3.6. Story 1 ディーティウス

2 秘密の回廊

 デルギウスはメドゥキを従えてディーティウスの居室を訪ねた。
「どうしたんです、兄上?」
「相談に乗ってもらいたい事があるんだ」
「ぼくも話があったんですよ――まずは兄上の用件からどうぞ」
「ああ、実はメドゥキが根城にしていた《神秘の星》から盗品を運び込んでいる。返せる物は元の所有者に返そうと思っているが、中には問題有りのお宝がある」
「へぇー」
「まず『魔導の玉座』、これは《念の星》からこちらで預かってくれと言われた。それから『野生の鎧』、やはり《魔王の星》の遺物だが、理由は魔導の玉座と似たようなものだ。そして『流星の斧』、これは《長老の星》にあった物だが、あそこの住人はとても友好的な話をできる雰囲気ではないらしくて返しに行けない」
「ふーん、こっちにも色々届いてますよ。《巨大な星》から変わらぬ友好の証として、『アダニアの杖』と『アビーの薄衣』が届いてます。まあ、ピエニオス商会にシップ製造技術を教えてあげたお礼なんでしょうけど」
「そんなにあるのか。この星にはちゃんとした宝物殿がないしな。どうしたものか」
「兄貴、おいらの家系に伝わる『スピードスター』ってお宝もお忘れなく」
「ふふふ」
「何がおかしいんだ、ディーティウス」
「お忘れですか。『不帰の吊橋』を」
「お前、まさか本気であそこに宝物殿を造るつもりか」
「正確に言うと『もう造ってしまいました』です」
「お前という奴は」
「兄上、真面目な話をしますとね。特にその玉座とやらは異次元で保管した方が良いと思うんですよ」
「うーむ、異次元であれば瘴気も漏れ出さないか」
「その通りです」
「へえ、兄貴は頭いいと思ってたけど弟君も相当優秀だね」
「メドゥキ、元はと言えばお前のしでかした件の後始末だぞ。宝物の返却、それから宝物殿への搬入と管理はお前に責任を持ってやってもらうからな」
「ええ、盗賊に宝物殿の管理をやらせるなんて正気の沙汰じゃない。弟君、何とかして下さいよぉ」
「まあまあ、兄上、メドゥキには手伝ってもらいたい事があるんですよ」

「ディーティウス、今度はお前の相談事か?」
「そうです。実はいよいよ《銀の星》に移住できる目途が着いたんです」
「すごいな」
「そうなればぼくは初代の王です。いいですよね」
「もちろんだ。こちらの星と兼務でもいいんだぞ」
「いえ、やはり《鉄の星》はいずれ兄上が落ち着くべき場所です。そちらは空けておきますよ」
「いやあ、素晴らしい兄弟愛だ。ところでおいらは何をお手伝いすればいいんですかね」
「聞く所によるとメドゥキは『耐性』と『適性』を一通り備えているそうじゃないか。《銀の星》ではどんな危険が待っているとも限らない。ぼくと一緒にあの星を人が住めるように変えてもらいたいんだ」
「ディーティウス、それはいい考えだ。メドゥキの能力は本来、そういう事に活かされるべきだと常々思っていた」
「……『素晴らしい兄弟愛』って言いましたが訂正させて頂きますよ。あんたら、とんでもねえ兄弟だ」

 
 その晩、床に着いたデルギウスにサフィのお告げがあった。次に向かう星は《享楽の星》だった。

 
 翌朝、デルギウスの下を珍しい人物が訪れた。褐色の肌をした好青年だった。
「クシャーナじゃないか。どうしたんだい?」
「君の弟、ディーティウスが高性能なシップを手配してくれたおかげでここまで来るようになれた。従来のシップでは《牧童の星》との往復が関の山だったさ」
「そうだったのか。《歌の星》の様子はどうだい?」
「ようやく軌道に乗りそうだ」

「先生は?」
「……それが」
「覚悟はできている。話してはくれないか」
「先生は《牧童の星》から大型シップを調達されて、多くの難民を《青の星》に帰還させ、又、希望者をご自分の星に移住させた。その合間には私にシップの操縦を教え、《歌の星》の将来像を描いて下さった。今日こうしてここに来れたのも先生が確固たる指導体制を敷いて下さったおかげだ」
「……」
「だがある日を境に先生は《牧童の星》に戻ったまま星に来られなくなった。心配になってザンクシアスに駆けつけると先生は病の床に伏せっておいでだった」
「先生はそんなにお具合が悪いのか。早速、見舞いに行かないと」
「――それはだめだ。『デルギウスには絶対に伝えるな』と言われている。君に許された時間はあまりないはずだ。私も先生と同じ意見だ」
「……わかった。これから全てが始まろうとしているのにな。お労しや、先生」
「先生は床についていてもわかっておられる。君が着々と世界を変えつつあるのをな」

 
「ところでクシャーナ。君はそれだけを伝えにここに来たのか?」
「ああ、試験飛行も兼ねてだ。今から急いで帰らないといけない」
「引き止めるのは良くないな――ところで先生から《青の星》について何か伺っていないか?」

「ノームバックを叩いたおかげで奴隷貿易は無くなったが、先生は大帝国の行く末を案じていたな。私も幾度か、先生と一緒に赴いた事があったが、何と言ったかな、あのツキウスの知り合いの」
「パレイオンか」
「そう。パレイオン師と会って色々と話し込んでおられたぞ」
「それだけか」
「変な事を言うな。下手に干渉して争いに巻き込まれる訳にはいかないだろう」
「大帝国は危険な状況なのか?」
「いや、今すぐどうという状況ではなかったと思うぞ」
「そうか。いや、引き止めてすまなかった」

 クシャーナは来た時と同じく、話が終わると、ファンボデレンやメドゥキにも会わずに急いで《歌の星》に帰っていった。
「人々をつなぐ――速いシップだけではなく、話したい時に話せる、そんな形が実現されないと」
 デルギウスはポートでクシャーナを見送りながら一人思った。

 

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 Story 2 大砂漠

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