3.4. Story 1 磁力の森

2 『吸引』と『排出』

 デルギウスたちはリリアの案内で森に入った。
「最終チェックよ。金属は身に着けてないでしょうね」
「ああ、大丈夫だ」
 ファンボデレンが頷いた。
「私の場合は自動装甲さえ発動しなければ問題ない」
「おいらも全部置いてきた」
「そう。なら行きましょう」

 
 雪の残る針葉樹の森の中を進むと革の鎧で武装した一団に出くわした。
「早速来たわね。目に物見せてやるから」
「リリア、ここは私の仲間に任せて。私たちはここで見物しよう」
 ファンボデレンとメドゥキは腹を空かせた猟犬のように敵に襲いかかった。十人以上いた敵はあっという間に打ち倒され、首領らしき男だけが残った。
「お、お前ら、覚えておけよ」
 男は情けない声を出して戦わずに逃げていった。

「大したもんね。でも間もなく『マグネティカ』の地域に到達する。ここからが本当の勝負よ」
「『マグネティカ』?」
「ええ、ボグザルが金色の石の力を増幅させる装置を父さんから奪い取ったの。その装置によってこの森は『吸引』と『排出』を定期的に繰り返すのよ。ただ引き寄せられるだけじゃなくて、弾き飛ばされる時間帯もあるから厄介なの」
「君の父さんが平和のために造った装置を悪用するとは、ボグザルは許せない男だな」

 
 さらに森を進むとメドゥキが突然に声を上げた。
「なあ、むずむずしねえか?」
「何言ってるんだ、お前」
「いや、体がこう何だか――あーっ」
 メドゥキの体が宙に浮いた。
「何やってるんだ、メドゥキ。重力制御ができなくなったのか?」
「兄貴、そんなんじゃねえよ。体が引っ張られて――」
 メドゥキの体はいよいよ高く宙に浮き、森の中心部に引っ張られていこうとした。
「あっ、メドゥキ。金属を身に着けてるでしょ。早くはずしなさいよ」
「そんな事言ったって。わーっ」
 メドゥキの姿はあっという間に森の奥の方へと飛んでいき、見えなくなった。
「何だ、あいつ」
「バカね。金属があるとああいう事になるのよ――まあ、今は『吸引』の時間だってわかっただけでもいいか」
「うむ、一人でどうにかするだろう。先を急ごう」

 
 しばらく進むと再び敵が姿を現した。先ほど逃げた男が今度は三十人以上を率いていた。
「てめえら、さっきはよくもやってくれたな。今度は容赦しねえぞ。おい、やっちまえ」
「メドゥキはいないから、ファンボデレン、悪いが一人でやってくれ」
「任せとけ。向こうも剣を持てないんじゃ俺に勝てる奴はいない」
 ファンボデレンは腕を振り回しながら敵に突っ込んだ。
 四、五人を殴り倒した所でいきなり上空から網が降って、ファンボデレンは捕われた。
「あっ、卑怯だぞ。放せ」
「ははは、てめえがバカなんだ」
 これを遠巻きに見ていたデルギウスはリリアに耳打ちした。
「リリア、あの網を持つ奴の手だけ狙えるか?」
「そんなめんどくさい事しなくてもこうすればいいのよ」
 リリアは背中から矢を取り出すと、きりきりと引き絞り、「リップアロー」と言って放った。矢は風を切り裂きながら進み、ファンボデレンが捕われている網をぶつりと切り落とした。

 体の自由を取り戻したファンボデレンは真っ赤な顔をして網を地面に叩きつけ、残った男たちを追い回した。
「容赦しないぞ、貴様ら」
 哀れ、残った男たちはファンボデレンに倒されるか、逃げるかして、いつの間にか先ほども一人残った男一人を残すのみとなった。
「て、て、てめえ」
「おっと、今度は逃がさないぞ」
 ファンボデレンは男のすぐ目の前に立って通せんぼをした。
「この野郎、後悔すんなよ」
「おう、やってみろ」
 男はそう言ってから逃げ出そうとしたが、ファンボデレンに首根っこを掴まれてだらしなく腰を抜かした。

 デルギウスたちはファンボデレンと男に近付いた。
「リリア、この男は?」
「知らない」
「おい、貴様、誰だ?」
 ファンボデレンは腰を抜かした男を無理矢理立たせた。
「おれはルミトリナ。ボグザルの副官だ」
「へっ、貴様が二番手ではたかが知れてるな」
「おれをどうするつもりだ。人質にでもする気か」
「いや、戦いの大勢に影響はない。このままにして先に急ごう」
「そうね。もうすぐ砦のはずだし」
 へたり込むルミトリナをそのままにして先に向かった。

 

先頭に戻る