3.1. Story 2 若き王の旅立ち

3 ルンビア

「しかしあそこは……隕石群が星の周囲を覆うようにあって容易には接近できないはずですが」
「慎重に進むのだ。折角のシップを破壊してはケミラに叱られる」
「わかりました」

 隕石に接触しないようにシップを慎重に進めた。途中でどうしても回避できないほど密集した隕石に遭遇した時には大きく迂回しながら、どうにか《守りの星》が見える距離まで近づいた。
 大小無数のプレートのような大地が空中に浮かんでいるのが見えた。プレートには木や草が生えており、デルギウスは一番大きそうなプレートにシップを停めた。
「ここからどういたしましょうか?」
「お主は空を飛べるか?」
「あ、はい」
「残念ながら私は飛べん。お迎えを待つとしよう」

 
 間もなくプレートのはるか下方の空間から数人の男たちが飛んできた。男たちは手に武器を携えていて、その背中には翼が生えていた。
「何をしに来た?」
 男の一人が宙に浮いたまま尋ねた。
「こちらは《鉄の星》の王、デルギウス。リーバルン殿はご存命か?」
「大王はすでに亡くなられた。そのご子息ならおられる」
「おお、と言うとルンビア殿か」
「お前らを連れてこいと言われた。付いてこい。飛べぬなら手を貸してやる」

 
 男たちはアンタゴニスを抱えて下の大地に降りた。デルギウスは補助を断り、自分の力で飛んでいった。プレートの下の球形の大地に降り、そこから森に向かって進んだ。
 森の中には一本の大きな木が生えていて、その前では火が焚かれていた。
 焚火を取り囲むようにして背中には白い翼、白い髪に白い髭の老人が座っていた。

「客人が来るとは珍しい」
「ルンビア殿ですか。こちらは《鉄の星》の『全能の王』デルギウス、私は家庭教師のアンタゴニスです。こちらにいらっしゃるとは思いませんでした」
 アンタゴニスが声をかけるとルンビアは皺くちゃの顔をさらに皺くちゃにした。
「名前は知っている。何かをしようとしている男の顔、兄と同じ目だ」
「私は《牧童の星》にいた時に聖サフィの声を聞き、デルギウスの下に参ったのです」
「うむ。その声は私も聞いた」
「やはりそうでしたか。で、ルンビア殿のご意見は?」

「私は《虚栄の星》に住んでいたが様々な迫害を見てきた。デルギウス殿が何をしようとしているかは知らんが快く思わない者もいる」
「ブッソン殿は『興味がない』とおっしゃっておりました」
「あの方らしいな。だがそれは本音。今の銀河は少数民族となった三界には住み難い世界。それが更に加速して喜ぶ者はいない」
「やり方次第だとは思いませんか?」
「確かに。だが一人の人間がやれる事には限りがある。《虚栄の星》に行って戻ってくれば、それだけで『持たざる者』の人生の半分近くを費やすのだぞ」
「はい。最新のシップを仕立てました。これを使えば《虚栄の星》まで数日――」
「ほぉ、それは素晴らしいな。『銀河の叡智』を早くも発現させたか」
「『銀河の叡智』……それは何ですか?」
「気にするな。兄と話した時に兄が使った言葉だ」
「単刀直入にお尋ね致します。ルンビア殿は協力して頂けますか?」
「さて、あなた方が何かを成し遂げる頃には、私はもう兄の下に行っている。後継者がどう考えるか私にはわからない」
「その方は今こちらに?」
「いや、スクートの末裔なら《巨大な星》で奴隷の扱いを受ける『空を翔る者』の解放に向かった。ここにはおらんよ」
「そうですか」
「他の星も回って仲間を救出するつもりらしいので帰ってくるのはいつになるか」

 
 デルギウスたちはシップに戻り、帰路に着いた。
「先生、一つだけわかった事があります。少数民族は虐げられて暮らしているのですね」
「うむ。本当は協力を取り付けたかったが、そんな状況ではなかった。だがお主がそれに気付いただけでも良しとせねばなるまいな――さて、《鉄の星》に戻ろう。これからが旅の本番だ」
「先生も一緒に来て下さるのですか?」
「最初の目的地だけな。後はお主の力で何とかするのだ……」

 

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 Chapter 2 ダドリヤキャンプ

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