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2 《沼の星》の主
「ほぉ、速いシップが完成したか」
アンタゴニスが驚いたように言った。
「はい。我が星の二人の大天才がその知恵を結集させました。安心して下さい」
「最近、講義中にディーティウスがよく居眠りをしていたがそういう理由があったのだな――で、何の力で進む?」
「基本は今まで通り『推力』です。そこに暗黒物質の力を借りて――『ダークエナジー航法』とでも呼びましょうか」
「とうとう異次元の力まで手に入れたか。『全能の王』、恐るべしだな」
「茶化さないで下さい。さあ、どこに行けばいいでしょう」
「まずは《沼の星》だ」
「……《オアシスの星》の近くですね?」
「うむ、出てきてくれれば良いのだがな」
デルギウスとアンタゴニスは新しいシップで《沼の星》に向かった。
「なるほど、これは速い。ピエニオスの最新型など比べ物にならん――お主、ケミラ工房を大きくするつもりか?」
「その辺は弟に任せます。ただシップの商売をピエニオスが独占しているのも面白くないでしょう」
「そうだな――おお、もう《沼の星》に着くぞ」
「ちょっと待って下さい。試験飛行ですから記録を取っておかないと」
《沼の星》は巨大な沼と言うよりは海と言った方が正しいのかもしれない、広域に渡って濁った水が星を覆っていた。所々、顔を見せている陸地の一つにシップを着陸させた。
「こんな場所に住んでいるという事は」
「左様。《古の世界》の生き残り、『水に棲む者』ブッソンだ――ブッソン殿、出てきて話をしては下さらんか」
鏡のように静かに青い水を湛えた海のように広大な沼のどこからも反応はなかった。
「ここにいるのは『全能の王』、サフィも認めた銀河を変える者です――」
「うるさいのぉ。さっきからここにおるわい」
デルギウスたちが立っている場所の先、数百メートルに浮かぶ陸地から声がした。
「やっ、ブッソン殿でしたか。私の名はアンタゴニス、そしてこの若者は――」
「知っておる。デルギウスじゃ」
「はあ、すでにご存じでしたか。ではこれからこの男が成し遂げようとしている事もご存じでしょうか?」
「知らんし、知りたいとも思わん。興味はない」
「それは水に棲む者の総意でしょうか?」
「本来であれば王となるべき珊瑚は深い海の底で眠ったまま。わしに『総意か』と訊ねても無駄だ。わしも他の者もただ静かに暮らしたいだけじゃ」
「……わかりました。今日の所は帰らせて頂きますが、気が変わりましたらいつでもお呼び下さい。このデルギウスが伺います」
「来るのは構わんが気は変わらん」
「失礼します」
「デルギウスよ。今は少数民族となった者の声、どう捉える?」
「何とも言えません。まだ世界を回っていませんから」
「それもそうだな。じっくりと考えるがよい――ところでシップの調子は?」
「すこぶる好調です」
「ならば《鉄の星》に戻らずにこのまま次の目的地に向かおう。《守りの星》だ」