2.8. Story 2 夜闇

2 消される記憶

 ケイジは自分がどこにいるのかわからなかった。
 チオニの東の都でヤーマスッドたちと対峙したが、あのヘウドゥオスと名乗る術師によってどこか別の場所に飛ばされたらしかった。
 そんなに高くない山の頂上にいるようだった。山頂の中心部には地中に深く刺さったのであろう白く光る金属が一部露出しているのが見えた。

「来たな」
 ケイジが声に振り返るとそこには白いローブを着た男が立っていた。つるつるの頭に鋭い目と赤い唇、どこか陶器を思わせるすべすべした肌をした、年齢も種族もわからない男だった。
「お前は――ナヒィーン」
「記憶が全て蘇ろうとしているのに残念だな。何故ならお前の記憶はここで又全て消される」
「そうか、そういう事か」
「サフィも余計な真似をしてくれる」
「サフィ、なるほど。計画を無視して私が予定よりずっと早くここに接近した事を言っているのだな。だが私をこのように自由な体にしているのだからそれは時間の問題だ」
「お前に知恵があるのも誤算だったな。全く、他のモノのようにおとなしくしていればいいものを」
「他のモノ……あんなのと一緒にするな」
「さて」
 ナヒィーンはケイジの言葉を無視して先を続けた。
「今の時代の流れからすると、しばらくは眠ってもらってもいいのかもしれないな。来るべき日の前には自然に目を覚ます」
「――逆らっても無駄なようだ」

「こうしよう。ケイジよ。お前、住みたい星はあるか?」
「……かつてサフィと偶然立ち寄った美しい青い星があった。あの星の風景が私の心に深く残っている」
「ふむ、おそらく《青の星》だ。ではその星で永き眠りにつくがよい」
 ナヒィーンの言葉が子守唄のように耳に響いた。ケイジは最早立っている事ができなくなった。

 

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