2.6. Story 1 カウントダウン

3 《霧の星》の奸計

 ケイジも又《起源の星》、ヤスミに凱旋したが武王は不在だった。
 モデストングと草がケイジの下にやってきた。
「これはケイジ殿、ご苦労だったな」
「お館様は?」
「《霧の星》で暴動があったとかでツォラを連れてお二人でお出かけになったが、お帰りが予定より遅い」
「――あの星で暴動が起こるはずがない。あそこに暮らすのは温厚な『胸穿族』だ」
「いや、使者は確かに《霧の星》だと言った」
「怪しいな。様子を見に行く。草、お主も一緒に来い」

 
 ケイジと草は《霧の星》に向かった。
 ケイジは胸穿族を信じていた。誰にも関わり合いを持たずに隠れて生きたいと願う、彼らは自分と同じ、かつての世界の忘れ物なのだ。
 ケイジたちが急いで霧深い森の奥にある集落に向かうと長老が現れた。

「これはケイジ殿。お久しゅう。その後記憶が戻りましたかな?」
 ケイジがどうにか自分の名前を思い出せるようになったのは、サフィと別れてこの星で胸穿族と暮らし始めてからだった。
 その時の事を覚えていた長老はケイジを優しく見つめた。
 ゆったりとしたローブを羽織っているせいか、胸に開いていると言われる大きな穴は外からは見えず、普通の人間と変わらなかった。
「お主たちが暴動を起こしたという噂があるのだが」とケイジが尋ねた。
「まさか。私たちが争いを好まないのはケイジ殿が一番よくご存じのはず」
「やはりそうだな。武王は偽りの情報に呼び出されたか」
「何かありましたか?」
「武王の姿を見ていないか?」
「いえ……いや、そう言えば数日前に数隻のシップが着陸して間もなく飛び去りましたな」
「わかった。ありがとう、長老。一瞬でもお主たちを疑って済まなかったな」
「いえ、私たちのような少数民族は疑われても仕方ありますまい。ケイジ殿のように力があれば周囲を黙らせるのも可能でしょうが、じっと耐えるだけです」
「そう言うな。いつか時代は変わる、そう信じて生きていくしかない」
「ケイジ殿のお強さがうらやましいです」

 
 長老と別れた後、草がケイジに尋ねた。
「今の方は私たちと変わらないように見えますが」
「そうだな。私も最初に会った時にはそう思っていた。あのローブの下を見るまではな――彼らは胸穿族、『フォグ・ツリー』から生まれた子たちだ」
「それは?」
「取り立てて知る必要もない。それよりも辺りを探そう」

 
 ケイジたちが森の入口に戻った所で不意に草が声を上げた。
「ケイジ殿。あれはツォラ様の得物、『クライリバー』ではありませんか?」
 草の指差す先に、大樹の幹に刺さった曲刀が見えた。すぐに草が大樹に取りつき、刀を回収した。
「あんな場所に刺さっているとは――何かあったな」
「どういたしますか?」
「相手がわからないのでは手の打ちようがない――一旦、ヤスミに戻るぞ」
「『草の者』が早く独り立ちできればいいのですが」
「そうあせるな。完璧な隠密組織を作り上げるには、幼き子供の頃から鍛錬を積まねば無理だ。お主の次の代、その次の代でようやく一人前の『草の者』が生まれる」
「時間がかかりますな」
「シップに戻ろう」

 
 ケイジたちがヤスミの城に戻るとカクカが来ていた。
「ケイジ殿。大変な事になっているようだの」
「ああ、ツォラの剣しか発見できなかったが、何かの事件に巻き込まれたと考えるのが普通だな」
「……心当たりがない訳ではないが」
「カクカ殿、真か?」
「恐らくは《享楽の星》」
「しかし」とモデストングが口を開いた。「この星を攻める理由がないではないか?」
「理由なら幾らでも。私は元々、あのドノスという王を怪しんでいたのです。とうとう動き出したという事であれば、この星だけで立ち向かうよりは覇王殿にも協力を求めましょう。ちょうど今、スフィアンが向かっているはずです。私の指示に従ってはもらえませんか?」
「いいでしょう。では早速《魅惑の星》に遣いを出します」
「いや、私とケイジ殿で赴きます――今回の戦い、おそらくこの時代を決する戦いとなるでしょう」

 

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