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3 廃墟の戦闘
《念の星》を出発した威徳の軍は途中で二手に分かれた。ケイジとシロンの乗るシップが《明晰の星》に、もう一隻は《魔王の星》へと向かった。
ケイジとシロンは廃墟に降り立った。
「ひどいな。文明も滅びてしまえばこのようなものか」
ケイジが人気のない街路に立って辺りを見回した。
「ああ、ケイジ殿。こんな所業をする奴に支配者の資格はない」
「元より魔王は支配者になる気などなく、根っから破壊や略奪が好きなだけなのだろう」
「カクカ殿の言われるように司空も殺人狂だとすると、まともなのは我が王と武王殿だけか」
「……だがどちらの王も真の勝者にはなれない」
「何、何を根拠にそのような事を言うんだ?」
「気付いていないのか。覇王殿は――待て、来たようだぞ。いいな、一人たりとも《魔王の星》に帰らせてはいかん」
「ああ、わかってる」
一隻のシップが着陸した。シップから二十人くらいの男たちが降りて、シロンたちの方に一目散に向かってきた。先頭にいる二人の内、剣を佩いている体格の良い二枚目がイットリナで、鞭を右手に持つ優男がブルンベだろう。
シロンたちを取り囲み、イットリナが口を開いた。
「久々のカモかと思えばトカゲ野郎と小僧か」
「でもよ、こいつら、いい得物持ってるぜ」
「じゃあ、やっちまうか。手ぶらで帰るのも何だしな」
ケイジが静かに答えた。
「ちんぴらか。魔王の将軍たちだと思っていたが」
「てめえ、ふざけんじゃねえぞ。おれたちゃ、魔王様の直属の悪魔と呼ばれる男たちだ。切り刻んでやるから後悔するんじゃねえぞ」
取り囲んだ男たちが武器を構えた。シロンもサーベルを抜いたがケイジはそのまま立っていた。
「やっちまえ」
イットリナの号令を合図に男たちが襲いかかった。
シロンは剣を避け、相手の急所に的確にサーベルを突き立てた。突かれた男たちは奇妙な舞いを見せながら倒れていった。
ケイジは刀を抜かずに手刀だけで相手を打ち倒した。
三分後にはイットリナとブルンベ以外のならず者たちは地面に寝転んでいた。
「てめえら、何者だ?」
イットリナが驚いて叫んだ。
「何者でもいい。逃げるんじゃないぞ」
「ちきしょう。おい、ブルンベ、おれはそっちの小僧をやる」
ケイジはブルンベと向かい合った。ブルンベは見慣れぬ獣の皮でできた鞭を左手でしごきながら、間合いを測り、かけ声と共に鞭の先端をしならせた。全く構えを取っていないケイジの尖った左の頬から血が流れた。
「へへへ。普通だったら顔面が破壊されてる所だが、さすがにトカゲ男の皮膚は硬いな」
ブルンベは狂ったように鞭を振るった。ケイジは相変わらず構えを取らず、間一髪で鞭の間合いをはずした。
「どうした、疲れたか」
鞭の攻撃が一瞬止んだのを確認してケイジが言った。
「ならばこちらも攻撃させてもらうぞ」
ケイジは初めて腰を低く落し、右手で刀の柄に手をかけた。
「ふん」
気合と共にケイジは直線的に飛び込んだ。慌てたブルンベが鞭を振るおうとしたがもう遅かった。
すれ違いざまに刀が一閃し、ブルンベは鞭を持つ手を上に上げたまま、どうと倒れた。
「……」
ケイジは倒れたブルンベを無言で見つめてから、シロンとイットリナの立ち合いに視線を移した。
シロンとイットリナはすでに何合か互いの剣を斬り結んでいた。イットリナの細身の剣は青白く光っていた。
「見せてやろう。『極光剣』」
イットリナが言うとシロンも言い返した。
「イットリナとやら。特別に私の名前の『S』の文字でお前を葬ってやろう」
再び二人の剣が交わったが、シロンの小剣はイットリナの左肩を的確に突いた。イットリナの動きが止まった所を、横に引き摺るように続けて右肩、斜めに降ろして左足の付け根、そこからまた横にいって右足の付け根、イットリナの体に見事な『S』の文字が浮かび上がった。
「……バカな」
イットリナは膝から崩れ落ち、そのままうつ伏せに倒れた。
シロンがケイジの方を見るとケイジはすでに戦いを終えていた。
「ケイジ、終わったよ」
「うむ、見事だった」
「ケイジもツクエみたいに居合を使うのかい?」
「いや、ツクエ殿とお会いした時に色々と聞いたので試しにやってみた」
「試しで将軍を倒しちゃったのかい。本当は違う技を使うんだろ?」
「完全に気配を消す――ここにいた二十人ならば一分で全員倒せていた」
「そりゃあどうも。花を持たせてくれたんだね」
「いや、お前の強さも見ておきたかったしな。いいものを見せてもらった――さあ、《魔王の星》に行こう。あの三人に任せておけば心配ないが、助太刀できる事があるかもしれん」