目次
2 ロッキ
ウシュケーが町の裏にある大きな廃屋に引き立てられると、すでにシップの人々は囚われの身となっていた。
「ウシュケー様」
「皆、無事かい――私の不注意で危険な目に遭わせたね」
「いえ、我々はウシュケー様を信じております。ただ……どうなるのでしょうか?」
「大丈夫。リーダーのロッキという方は話がわかりそうだ」
「それを聞いて安心しました」
日が沈み、町の入口にいた老人が夕食を運んできた。老人は人数分のかちかちのパンと水のように薄いスープを配り、気の毒そうに言った。
「あんたたち、可哀そうになあ。ロッキみたいな男に捕まっちまって」
「後でゆっくりと話を聞くとおっしゃっていましたが」
ウシュケーの言葉に老人は首を横に振った。
「……あれほど残忍な男はおらん。捕まった人は皆、身の上話をさせられるんじゃが、奴は時には涙を流しながら話を終いまで聞く。話した方はほっとするわな、もしかしたら命は助けてくれるんじゃねえか。ところが話が終われば、奴はけろっとした顔で『もう終わりか。最後の祈りの言葉を言え』と言って、結局は殺す」
「そんな事をする方には思えませんが」
「少しでも長生きできるように良い話を準備しておくんじゃな」
老人が食事を片づけてからしばらくすると、ロッキが一人でやってきた。
「さてと、話を聞かせてもらおうか。ウシュケー、こっちに来な」
ロッキは人々が囚われている大部屋の隣の部屋にウシュケーを招き入れた。
「飛びっきりの面白い話を頼むぜ」
「わかりました。面白いかどうかは保証できませんが」
【ウシュケーの独白:見たもの】
――私はご覧のように生まれつき目が見えませんが、生涯で一度、たったの数十分間だけでしたが、物を見る事ができたのです。
それは私の師、サフィが私に施した術のおかげでした。師は私に『本当に必要な時だけ、目を開けて物を見るように』と申されました。
私が見たもの、それは私が暮らした星、通称《古の世界》が九つの頭を持つ炎の怪物に食い荒らされていく様でした。
その時にはっきりと悟りました。この怪物は世界を破壊しているのではない、来るべき新しい世界のために古い因習やしがらみを焼き尽くしているのだと――
ウシュケーが一旦、間を置くとロッキは表情を変えずに言った。
「続けろよ。その怪物は何て言う名前なんだ?」
「はい。ナインライブズだと言う者もおりましたが私にはよくわかりません」
「ふぅん、ナインライブズか。で、話はこれで終わりって訳じゃないだろ?」
――私はサフィの知恵と力によって新しい世界に旅立ちました。そしてこの星にたどり着き、星の名前が《祈りの星》だと伺った時に確信したのです。
この星こそが新たな教えを開く地であると。
ナインライブズの九つの炎の頭を持った怪物を奉った教会を建立し、必ずや再び訪れるであろう浄化の時に備えるのだと。
ウシュケーの話が終わり、ロッキはふぅっと大きく息を吐いた。
「おい、ウシュケー。おいらも大概おかしいが、お前も相当なもんだ」
「どういう意味でしょうか?」
「おつむがいかれてるって意味だよ。だがな、そういう話は嫌いじゃねえ。大抵の奴はお涙頂戴、命乞いしかしねえが、お前はそうじゃなかった。ここはいっちょ、その教会とやらを建ててみろよ」
「教会の建立をお許し願えるのですか?」
「ああ、だがやるんなら、他の星の奴らも見に来るくらい立派なもんじゃなきゃだめだ。ナインライブズがご本尊だって言うなら、教会だって一つって訳にゃいくめえ」
「と言いますと?」
「おいらは明日から遠征に出る。三十昼夜はかかる計算だから、その間にこのムシカに九つの教会を建てろ。それができたらお前とお前の子分たちがここで暮らすのを認めてやらあ」
言うだけ言うと、ロッキは上機嫌で去っていった。