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2 白龍
サフィたちは宮殿の外でエクシロンたちと合流した。ギラゴーを倒した事、ヤッカームには重傷を負わせたが逃げられた事を報告し合い、話はグレイシャーの行方へと移った。
「あのぉ」
話し合うサフィたちの背後で声がした。声の主は小さな少年だった。サフィはにこりと微笑んだ後、少年に近付き、しゃがみ込んで少年を抱きしめた。
「おい、何すんだよ。いきなり」
「よかった。生きていたんだね。他の皆も元気かい?」
「えっ、兄ちゃん、おいらを知ってるのかい。それに他の皆って?」
「……記憶を失くしたのか。白龍」
「白龍……白龍ってのがおいらの名前なんだね」
「ああ、そうだよ。ここにいるルンビアを見てごらん。どことなく似てるだろ。君はルンビアに似せてその姿になったけど、本当は龍なんだ」
「……だめだ、思い出せないや」
「サフィ、無理よ」と言ってアビーが白龍の肩に優しく手を置いた。「その時が来るまで記憶は戻らない。ディヴァインが命を懸けて他の龍たちも助けたけど、逃がすだけで精一杯だったんでしょうよ」
「アビー、君は――」
「そうそう、白龍。あんたならわかるんじゃない。この宮殿の主、グレイシャーの行方が?」
アビーはサフィに質問する間を与えずにまくし立てた。
「そうなんだよ。グレイシャーは変な奴にだまされてこの宮殿そのものになっちまったんだよ。なあ、助けらんないのかい?」
「自然に還ったというのか……わかった。まずグレイシャーに話しかけてみよう」
サフィは雪の上に図形を描き、Arhatsの名を呼んだ。
「モンリュトル、ニワワ、ヒル、マー、ウルトマ、そしてアウロ。私に力を貸してくれ」
サフィが描いた図形から白と黒の光の柱が湧き上がり、辺りを包み込んだ。
(我はグレイシャー。我を呼ぶは何者?)
サフィたちの耳に声が響いた。
「私はサフィ。グレイシャー、君は今、どこにいるんだい?」
(我は宮殿と一体化した。この宮殿こそが我)
「元の精霊の姿には戻りたくないかい?」
(精霊とはそういうものだ。長い時間を経て自然と一つになる。そして自然は又、新たな精霊を生み出す、その繰り返し。我の場合はそれが早かっただけで、何の未練もない)
「……わかった。お願いがあるんだけど」
(あの剣を守れと言うのであろう。よろしい、我が体内である宮殿の中で真の所有者が現れるまで守り続けるとしよう。だが――)
「大丈夫、一人ぼっちじゃないよ」とアビーが言った。「この白龍にもここで剣を守ってもらうよ――白龍、あんたも、あんたの迎えが来るまではここにいるんだよ、いいね」
「ああ、何の事だかわかんねえけど、グレイシャーと一緒ならそれでいいよ」
「……という事だ。白龍もここにいてくれる。グレイシャー、やってもらえるかな?」
(任せておけ)
「ありがとう」
グレイシャーの気配が消えるとサフィは白龍に言った。
「さあ、白龍。いつの日か迎えに来る君の仲間について話してあげるよ」