目次
2 聖母の影
ニライが「サフィ様、巡礼の方が参られていますが」と伝えにきた。
サディアヴィルに落ち着いてから十数昼夜が経とうとしていた。サフィはエクシロンたちと礼拝堂の建築に携わっていた。
「この星の人たちは私たちに距離を置いているのに珍しいね。人が訪ねてくるなんて」
サフィはエクシロンに後の作業を頼み、手をぽんぽんと叩いてから、ニライの後を歩いていった。
訪問者は一組の男女だった。男性はがっちりとした体格の笑顔が印象的な好人物だった。女性はまだ若く、褐色の肌に黒い瞳、こちらもよく動く大きな瞳が好印象を与えていた。女性は背中に大きな楽器を背負っていた。
サフィはその女性を一目見た瞬間に「おやっ」と思った。「どこかで一度会っている」、そんな気がしたからだった。
「あんた、サフィ様かい?」
男は気軽に声をかけた。
「ようこそ、サディアヴィルへお越し下さいました。サフィ・ニンゴラントでございます」
「おれの名はプララトス、こっちの姉ちゃんはアビーだ。よろしく頼むよ」
「ご用があって来られたのでしょう?」
「おお、おれは南のショコノっていう村の漁師なんだがな。そっからさらに南にファルロンドォって呼ばれる氷に覆われた一帯があるんだよ。最近、どうもそこに住む精霊が悪さしてるのか、ある朝、ショコノの海が一面凍りついちまったんだ。で、おれはファルロンドォに行って、そいつをとっちめてやるつもりだった」
「それでどうなりました?」
「途中まで行ったんだが、ここにいるアビーが突然現れて、『サフィの協力を得なきゃ勝てない』って言うもんだから、ここに寄ったって訳だ」
「アビー。何故、私たちの力が必要だと?」
「あんたたちのシップが到着した時に、一人足りなかったんじゃない?」
「……何故それを?」
「細かい事はいいじゃない。でも自分で蒔いた種は自らが刈り取るものだよ」
「確かにその通りです。もしかするとあなたはその人物が誰であるかもご存じなのではありませんか?」
「そんなの行ってみないとわからないわよ。さあ、ごたく並べてる暇があるならとっとと行こうよ」
サフィはアビーにせっつかれるままに出発の準備をした。アダニア、エクシロン、ルンビア、ウシュケー、ニライにも声をかけ、ニライの片腕を務めるアーノルドという男とウシュケーの世話役のシーホに留守を任せ、サディアヴィルを出発した。
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