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3 ディヴァイン
ディヴァインたちが現れたのは風穴島だった。ディヴァインはサフィに肩を貸したまま、目の前の黄龍と黒龍のにらみ合いに目をやった。
「何をしておる?」
ディヴァインの姿に気付いた黄龍がいち早く人間の姿に戻り、続いて黒龍も人間に姿を変え、二人とも跪いた。
「黄龍よ、余とともに参るがよい。この命を懸けた弱き者を連れてな」
黄龍は急いでサフィの下に駆け寄った。
「おお、サフィ。すまぬ、このような目に遭わせてしまって、すまぬ」
「……黄龍様、よいのです。それよりも……世界を」
「大丈夫じゃ。ディヴァイン様はもう行かれた。わしらも後を追うぞ。さあ、肩につかまれ」
「――なるほど、一本取られたな。しかしそんな弱き生き物を『死者の国』に行かせるとは、貴様も思ったより残酷だな」
黒龍が岩の上に腰かけたまま言った。
「サフィは弱い生き物などではないわ。黒龍、お主は行かんのか?」
「いや、遠慮しておこう。馬鹿な奴らだが可愛い部下だ。消されるのを見るのは忍びない」
サフィと黄龍は黒龍を島に残したまま、ホーケンスに向かって飛び立った。
ホーケンスでは三体の龍が世界の中心広場まで数百メートルの距離まで迫っていた。
「ようやく街の中心部みてえだぜ」
「他愛のないものですねえ」
「一気に潰してしまおう」
突然、三体の龍の前の地面に強烈な光が走り、光が去った後には槍と盾を持った騎士が立っていた。
「デ、ディヴァイン」
「どうしてこんなに早く目覚めた?」
「『死者の国』の奥深くにいたのではないのか?」
「余がいないのを幸いにここで何をしておる?」
「まあ、固い事言うなよ。どうせこの世界は終わっちまうんだろ?」
グリュンカが言い終わらない内に、ディヴァインはその鼻先に槍を突き出した。
「ここで何をしていたかと聞いているのだ」
「う、うるせえんだよ。あんたの指図は受けねえ!」
グリュンカの体中の目から怪しい光線が発射されたが、光線は全てディヴァインの持つ盾に吸収された。
「せっかく目覚めたばかりの所を気の毒だが、もう一度眠ってもらうぞ。悪く思うな」
ディヴァインが槍の先で胸元の逆鱗を軽く突くと、グリュンカは地の底から響くような声を残して消えた。
この光景を見たゾゾ・ン・ジアは空に飛び上がり逃げ出そうとしたが、ディヴァインは先回りした。
「ゾゾ、何か言う事は?」
「あたしゃ、ただ黒龍に言われただけで」
「それだけか」
ディヴァインの槍の一撃でゾゾ・ン・ジアも姿を消した。
ディヴァインは再び地上に戻り、バトンデーグの前に立った。
「バトンデーグ、お前は?」
「何も言う事はない」
「わかった。殺す訳ではない。安心しろ」
バトンデーグも消え、後には破壊し尽くされた市街地だけが広がっていた。
世界の中心亭から外に出たリーバルンたちは、あっと言う間に三龍を消したディヴァインを遠くに見ながら呆然と立っていた。
そこに黄龍がサフィを抱えて戻ってきた。黄龍は地上に降り立ち、サフィを静かに地上に横たえた。
リーバルンたちが黄龍の下に駆け付けた。
「……これは」
「ひどい」
ルンビアが倒れているサフィにすがりついた。
「兄さん、しっかりして下さい」
エクシロンは顔を真っ赤にして黄龍に詰め寄った。
「てめえ、兄いに何をした!」
リーバルンがサフィの脈を取り、静かに言った。
「大丈夫。死んではいない。すぐに世界の中心亭へ。私が診よう」
数時間後、ソファの上でサフィは目を覚ました。
「……皆、無事だった。良かった、間に合ったんだ」
「兄い、兄いよぉ」
エクシロンは子供のように泣きじゃくった。
「……ディヴァイン様たちは?」
「外にいる」とリーバルンが答えた。
「……お礼を言わなくては」
起き上がろうとするサフィをリーバルンが止めた。
「今は無理だ。休め」
「はい」
気が付けば、ソファの脇でウシュケーが泣いていた。
「どうしたんだよ、ウシュケー」とエクシロンが尋ねた。
「私には見えませんがわかります。サフィ様の精神の気高さが。たとえ足を失われようが、腕をもがれようが、サフィ様、あなたは素晴らしいお方です」
世界の中心亭の外ではディヴァインが黄龍たちを集めて話をした。
「黄龍よ。よもや生きたまま『死者の国』を越える者がいるとは思わなかったぞ」
「ディヴァイン。サフィとはそういう男。唯一あの男だけが予定を覆す事のできる存在。そう睨んだわしの目に狂いはなかったが――」
「右足を失い、髪の毛も一瞬にして真っ白になった」
「一瞬にして老け込んでしまう――何億もの魂の記憶が体を通り抜ければ無理もないか」
「今はサフィの思いに応えるべく全力を尽くそう。余はこの世界の終わる日をここで見届けようと思う」
「わしらもそう致します」
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