1.4. Story 1 咆哮

3 未来への光明

 黄龍たちを案内してホーケンスの西の平地に新しく建てられたシップの工房に向かった。
 そここそがこの星の全ての人間が描いた理想の場所、三界も『持たざる者』も一緒に協力してシップ製造に励んでいた。
 アダニア、ウシュケー、ニライの姿もそこにはあって、サフィたちが到着すると手を上げて挨拶をした。

「ほぉ、お主たちの言った通りじゃ。皆、一緒になって働いとる」
「ようやくここまで漕ぎ着けました」とリーバルンが言った。「全てサフィたちのおかげです」
「にしてもやはりこのシップでは他所の星まで辿り着く事など不可能。かなり手直しが必要じゃ」
「製造責任者を呼んできます」
 リーバルンが言って、スクートはピエニオスを探しに走っていった。

「責任者が来るまでの間に質問があったら答えてやるぞ」
「黄龍様」
 ルンビアが口を開いた。
「ぼくはこの中で一番遠くまで出かけています。真っ黒な空間を進んでいると『自分はどこに向かっているんだろう』とか、『このまま元の場所に戻れないんじゃないだろうか』と不安になるのです。どうすればいいのでしょうか?」
「ふむ、難しい質問じゃ。幾つか答えを持っているがお主たちの手に余るものでは意味がないし……そうじゃ。お主たちのシップにあれを取り付けてやろう」
 黄龍が赤龍に何事か指示を出すと、どこから取り出したのか赤龍は直径十五センチほどの球を手にしていた。
 透明な球の中には青龍とよく似た龍のオブジェがゆらゆらと浮かんでいた。

「『ポインティング・ドラゴン』じゃ。この球の中に龍が浮かんでおるじゃろ。お主たちの戻る場所は常に尻尾を指す。それに対して目的地は常に頭じゃ。これをシップの中に置いておけば不安もなくなる」
「不思議な仕組みですね」
「もっと高度なものもあるが使いこなせるものではない。このくらいで我慢するんじゃな」

 
「黄龍様」
 今度はサフィが言った。
「脱出してから向かうべき星はどこがいいのか、この世界にどれだけの星があるのか、そういった事が皆目見当がつきません」
「そんなのは宇宙空間に出てから心配すればいい。だがそうじゃな。ここから大分行った所に物凄く大きな星がある。《巨大な星》と呼ばれており、そこそこの文明もある星じゃ。まずはあそこを目指し、星の人に移住の許可をもらう事じゃな」
「そんな事が可能ですか?」
「何しろ大きいから、この星の全員で移住してもいいくらいじゃ」
「それを聞いて安心しました」
「まずはその前にシップの性能を向上させる事じゃ。今の出来では《巨大な星》に行き着くまでに飢え死にしてしまう」

 
 その後、スクートが仏頂面のピエニオスを連れてきて、シップの改造について話し合いが持たれた。
 木造ではなく金属でコーティングする事、より多くの『推力』を得るためにモルゴ雲母の層を厚くする事、そういった一つ一つの忠告にピエニオスは文句ひとつ言わず、設計図にメモを書き込んだ。

 ピエニオスが再び作業に戻っていった所で黄龍が呟いた。
「ところで精霊の気配がせんが、奴らはどうした?」
「それが」
 リーバルンは気まずそうに『精霊戦争』の話をした。
「……この星を見限ったか。やはりそんな事をしたのではこの世界の滅亡は避けられんな」
 黄龍の最後の一言に皆、黙り込んで俯いた。

 

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 Story 2 泡沫(うたかた)

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