目次
2 ウシュケー
サフィはさらに地下深くに降りた。道を照らす松明の数が徐々に減って辺りは暗くなった。
とうとう真っ暗になり手探りで進んだ。そのまましばらく進むと再び松明の灯りが見えて、そこが鉱山だった。
サフィが鉱山の入口で立ち止まっていると一人の男が近づいた。髪も髭も銀色の柔和な表情の男だ。
「サフィ様ですね?」
「何故、私の名を」
「気配でわかりました。普通の人間ではない、何かを持った人間、これは救世主サフィ様に違いないと思っておりました」
「それはどうも……ウシュケー、あなたに伝える事があって来たのです。まずネボリンド王の命令をお伝えします。この鉱山での作業を直ちに中断して引き揚げるようにとの事です」
「……ミラナリウムが見つかるかもしれないと言うのに。その理由をご存じでしょうか?」
「それをお話しするにはもう一つの用件もお伝えしないといけません。ひとまず上がりませんか?」
「あなたがおっしゃるのでしたら従いましょう。仲間に伝えて片づけをしますので、お先に出発なさって下さい」
サフィは一足先に王宮に戻った。王の間にネボリンドの姿はなく、家臣が麻袋に一杯の雲母を持たせてくれた。
王宮を出てワジ居留地で待っているとウシュケーが仲間を連れて戻った。
ウシュケーは一旦家に戻ってから、シーホという名の青年を連れてサフィの下にやってきた。
「お待たせしました。話の続きをお願いできますか?」
「はい。ネボリンド王が鉱山をあきらめられた理由はこの星が間もなく滅びてしまうからです」
「滅びる?」
「はい。すでに王に設計図を手渡しました。それは滅亡の日に脱出するためのシップの設計図、一刻も早くシップを建造しないといけないのです」
「そのために私たちが呼び戻された……」
「その通りです。あなたにお願いがしたい。ワジの人々を救い出すシップを作ってもらいたいのです……ここに設計図が……でもウシュケー、あなたは」
「はい。私は目が見えません。ですが隣にいるシーホもおりますし、その他の感覚は常人以上に優れております。鉱脈を発見したり、あなたが来るのが事前にわかったり。どうぞ、お気になさらず続けて下さい」
サフィは設計図を手渡した。ウシュケーはその紙に何度も手を触れ、何度も頷いた。
「サフィ様、わかりますよ。この設計図はちゃんと私に語りかけてきます。このシップが空を飛ぶ姿も浮かんできますよ」
「ウシュケー……協力して頂けますか?」
「もちろんです。あの劣悪な環境の鉱山から救い出して下さったサフィ様に恩返しをさせて下さい」
「では滅亡の日にはどこかの上空でお会いしましょう。その日までご無事でいて下さい。何かあったら私の名前を呼んで下さい」
サフィとウシュケーは固い握手をして別れた。
淡霞低地では疲れ果てた顔をしたルンビアとエクシロンが霧の中で座り込んでいた。
「兄さん、どうでした?こっちはだめです。雲母は見つかりませんでした」
「ルンビア、これを見てごらん」
サフィは大きな麻袋をルンビアに渡した。
「兄さん、これは?」
「こりゃあモルゴ雲母じゃねえか。兄い、どこで見つけたんだ?」
「ネボリンド王から頂いた。さあ、ホーケンスに帰ろう」
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