1.3. Story 4 氷雪

3 エクシロンの奮闘

 サフィとルンビアが疲れ果てて世界の中心亭に戻ると、二階の個室で頭と腕に包帯を巻いたエクシロンが椅子に座って大いびきをかいて寝こけていた。
「エクシロン、遅くなった。その怪我はどうしたんだい?」
 サフィに声をかけられ、エクシロンは慌てて目を開けた。
「よお、兄い。石ならピエニオスの所に届けといたぜ。そっちはどうだったい。おれの子分にもサソーから来た奴が何人かいるが、あそこのリーダーのトスタイって野郎は器のちいせえ――あ、いてて」
 エクシロンは頭を押さえた。

「石の件はご苦労だったね。それよりその怪我はどうした、と訊いているんだ」
「ああ、これね。大した話じゃねえ。ピエニオスから石の採れる詳しい場所を聞いてたから、そこに行ってせっせと袋に詰めてたんだよ。そしたら突然、地面から妙な奴らが湧き出してきやがってよ、それで一戦交えたって訳だ」
「雷獣は連れて行かなかったのか?」
「あんな奴、連れてったらそれこそ戦争になっちまう。兄いに迷惑はかけらんねえからここに置いてった」
「でも一戦交えたんでしょ?」
 ルンビアが尋ねるとエクシロンは舌を出しておどけた。
「まあな。だけどこっちは石のたっぷり詰まった袋抱えてらあ。もっぱら逃げるのに専念してたんだが、途中で我慢できなくなって、ちょいとな」
「しかしエクシロンに傷を負わせるとは、相手はかなりの手練れだな」

「兄い。おれがそう簡単にやられる訳ねえだろう。本当はよ、重てえ石の袋を抱えて地下から湧いてくる奴らから逃げ回ってるうちに『あれ、もしかしたらおれも兄いみてえに空飛べるんじゃねえか』って思い立ったのよ。そしたら案の定、飛べるじゃねえか。で、調子に乗ってホーケンスまで帰って来たんだが、どうにも降り方がわからねえときた」
「……もしかして降りる時に重力を制御しそこなったのか?」
「ああ、着地の時に頭と腕をしこたま打った」
「ははは、でもこれからはエクシロンも一緒に遠出ができますね?」
 ルンビアが笑いながら言った。
「だよな。おれがいりゃあ百人力だ」

 
 トイサルが食事を持って個室にやってきた。
「おう、サソーはどうだった?」
「最初にブッソン様にお会いしたよ」
「おお、そりゃすごいな。多分、お前らが来るのをわかって待ってたんだろ」
「色々興味深いお話を伺い、後はナラシャナ様の思い出の――」
「……ルンビア、ナラシャナに触れる事はできたか?」
「はい。おかげさまで」
「そりゃあよかった」
「その後、サソーのアダニアに会った」
「アダニア、聞いた事ねえ名前だな」
「設計図は彼に委ねてきたんだ」

「ところでお前、リーバルンにはまだ話してないんだろう?」
「シップの試作機ができるまでは伏せておいた方がいいかと思って」
「そんな所だろうな。実はな、お前らがサソーに行ってる間にリーバルンが訪ねて来た」
「えっ?」
「でもな、ここで待っている間に血まみれのエクシロンが転がり込んできて大騒ぎになった。リーバルンが『彼は誰だ?』って気絶してるこいつを指差して訊くから『西の海岸の山賊のボスで、今はサフィの弟子だよ』って答えたら、にやりと笑って帰ったよ」
「そんなやり取りがあったんだね」
「まあ、大体を察したろう。けどちゃんと話はしろよ。あいつはお前の一番の理解者だからな」

 

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 Story 5 地の底

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