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エクシロン

サフィの弟子
プントの孫
父の代にミサゴを逃げ出し山賊になる
【人名】

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ピエニオス

ホーケンスの大工
設計図に従い、『シップ』を建造する
【人名】

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ルンビア

リーバルンとナラシャナの間の子
サフィを兄として育てられる
【人名】

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サフィ・ニンゴラント

持たざる者最初の指導者
【人名】

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プント

ミサゴのリーダー
【人名】

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リーバルン

空を翔る者
アーゴの息子で『白き翼の者』と称される
【人名】

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マックスウェル

異世界の住人
【人名】

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黒トリロス

鉱石
黒い色をしており、軽量で、鎧兜の補強に用いられる
比翼山地の奥の鉱山で産出される
【自然】

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風穴島

ミサゴの西方にある岩だらけの島
リーバルンの命を受けたサフィとルンビアが探索中に洞窟の最深部で黄龍と遭遇、会話したことから龍の存在が確かなものとなる
【自然】

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ミサゴ

空を翔る者の使役する持たざる者の居留地
【地名】

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比翼山地

空を翔る者の領地
最深部に山鳴殿がある
【自然】

1.3. Story 3 山賊

2 エクシロン

 サフィは一人で西の海岸線を南に向かって歩いた。ルンビア黒トリロスを分けてもらいに比翼山地の鉱山に向行っている。ホーケンスのピエニオスの工房に届けてから、サフィと合流する手筈だった。
 先刻から監視されているのを感じていた。もう少し南に行けば山賊のテリトリーなので、おそらくそこの一味だろう。

 サフィはある事を試そうとしていた。
 自らに課した修行はすでにかなりの段階に達した。リーバルンの言った耐性、適性は言うに及ばず、この世界に眠る力の源を調べ上げ、それを呼び出す術、『羅漢陣』もほぼ習得した。
 だが比翼山地の奥の異界に出現した謎の女性のシルエット、あれだけはどの書物にも載っていなかったし、再現する事もできなかった。

 今いる場所は砂浜でルンビアもいなかった。失敗してもやり直せばいい。サフィはおもむろに落ちていた一本の棒きれを拾い上げ、大きな円を描き、その円周上にきっちりと六十度ずつの刻みを入れた。そうしてできた六個の刻みに対して、一番目と三番目と五番目をつないで三角形を描いた。同じように二番目と四番目と六番目をつないで、二個の三角形を円内に描いた。
 そこにそれぞれの創造主を表す言葉を書き入れて準備を終えると、棒切れを砂浜に置いて、描いた円の中心に立ち「真の力よ、我にその姿を見せよ」と唱えた。
 すると二個ある三角形のいくつかの頂点から赤、黄、青、白、黒の光の柱が沸き起こった。光は一瞬にしてサフィを包み込んだが、すぐに消えた。
「ふぅ、やはりあの現象は起こらないか……もう一回やってみるか」

 
 サフィが再び棒切れを手に取って、砂に円を描こうとしていると、どやどやと人が近づいてきた。
 皆、手に手に武器を持ち、いかつい顔だったが、一様に強張った表情だった。
「……おう、ここで何やってんだ」
 一人の男が震える声で訊いた。
「あなた方は、私を先ほどから監視していましたね」
「ここはエクシロンの縄張りだ。滅多な真似をされちゃあ困るんだ」
「失礼しました。エクシロン、というのが首魁のお名前ですね」
「何だ、『しゅかい』って。まあ、いい。てめえは何やってんだ?」
「ちょうどそのエクシロン様に会いに行く途中で、弟の到着を待っておりました」
「あんだとぉ。今、親分に連絡に行かせるから暴れんじゃねえぞ。いいな」
 男は別の男に耳打ちし、別の男に指名された足の速そうな男が走り去った。男はすぐに戻ってきて報告した。
「はぁ、はぁ、親分が『連れて来い』って言ってやす」

「それは助かります。場所を探す手間が省けました。ただ弟が――ああ、どうやら来たようです。では参りましょうか」
 サフィが男たちに付いて歩き出すとルンビアが空から舞い降りた。
「兄さん、この人たちは?」
「エクシロン様の下に案内して下さるそうだ。ちょうど良かったな。ところでお前の方は?」
「はい、無事にピエニオスさんに届けました。すごいですよ、あの方の工房は――」
「おい、少し静かにしねえか。てめえらはこれから殺されるかもしれねえんだぞ」
 先頭を歩く男があきれたような顔をして怒鳴りつけた。

 
 海岸線をさらに南に下った所に小さな森があり、その先に海を背にした断崖絶壁の小高い岩山、その中腹にエクシロンの砦が建っていた。男たちはサフィとルンビアを連れて山を登り、砦の門が開いた。

 
 砦の中は広場で、中央に一人の男が立っていた。まだ一万昼夜は生きていないだろう、日に焼けた肌に波打つような黒髪の野性的な男だった。恐ろしい表情を作っていたが、目元には何とも言えない愛嬌があった。
「お前か。怪しげな術を使ってたのは――何だ、もう一人小僧がいるじゃねえか」
「あなたがエクシロン様ですか?」
「おう、お前一人ならば仲間になりたいのかとも思ったが、後ろの小僧を見て全部読めたぜ。空の差し金だな」
 エクシロンは腰に下げた剣で今にも斬りかかってきそうな勢いだった。
「話を聞いて下さい。私の名はサフィ、ミサゴの者です。これは弟のルンビア、『空を翔る者』の父と『水に棲む者』の母の間に生まれましたが、私の兄弟でございます」

「……サフィにルンビア……なるほどな。ミサゴにどえらい天才が生まれて救世主と呼ばれてるって話、それがサフィって名前だったな。それにルンビアは空を翔る者の王じゃなかったか」
「エクシロン様、よく御存じですね」
「当り前だ。死んだ親父はミサゴの出だったから今でも情報が入ってくる。じいさんの名はプントって言うんだ。親父が若い頃にミサゴを出ちまったから面識はねえが、ミサゴの人間なら知ってんだろ?」
「……プントの……プントには我が子のように可愛がって頂いております」
「そりゃあ結構なこった。だが何でお前らここに来た。じじいに言われて探りにでも来たのか?」

 
「いえ、こんな事を申し上げても信じて頂けないでしょうが、私はこの世界を救いたいのです。そのためにエクシロン様のお力をお借りしたいと思いここに参りました」
「へん、救世主様は三界相手に一戦交えようって訳かい。話としては面白いな」
「……そうではありません。三界がどうこうではないのです。これをご覧下さい」

 
 サフィはそう言って、マックスウェルの設計図をエクシロンに渡した。
「ほら、これは何かの乗り物じゃねえか。これに乗って三界に攻め込むんだろ?」
「いえ、これは戦うためではなくてこの世界から脱出するための船です。そのためにお力を貸して欲しいのです」
「言ってる意味がわかんねえな。逃げるたってどこに逃げるんだ。そもそも何で逃げる必要がある?」
「はい。この星はやがて滅びます。私たちが逃げ出すのはこの星の外、別の星です」
「何だよ。救世主ってのは怪しげな預言者かよ。もういいや」
 エクシロンはすっかり興味を失ったのか、設計図を突き返した。

「エクシロン様、私は見たのです。龍が復活してこの星を破壊します。それがきっかけとなってこの星は爆発します。『風穴島』で龍の声も聞きました。そんなに先の事ではありません」
「これ以上、おれをがっかりさせねえでくれよ。そんな突拍子もない事言われて、『はい、そうですか』とはならんだろ」
「どうすれば信じて頂けるでしょうか?」
「……付いてきな」
 エクシロンは砦の奥に向かって大股で歩き出し、サフィたちもその後を付いていった。

 

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