1.2. Story 5 精霊戦争

4 珊瑚

「やれやれ」
 トイサルは広場で行われた休戦協定の調印式を二階の窓から見届け、大きな伸びをした。
「ようやく、バカどもが大人しくなるか」
 ローミエが亡くなった事により休戦が成立するとは。だがレイキールとヤッカームの間の緩衝材がなくなった事により、両者の争いが顕在化するのではないか。
 リーバルンとレイキール、レイキールとヤッカーム、ヤッカームとネボリンド――良い兆候は見て取れなかった。
 何か新しい要素があれば――後、千数百昼夜、この世界がそこまで続いてくれれば、サフィが表舞台に登場し、光を与えてくれるかもしれないのに。

 
 空を翔る者にも変化が訪れた。負傷したアーゴ王だったが、回復の具合が思わしくなく、休戦成立後間もなく息を引き取った。

 
 死の前夜、リーバルンはアーゴに呼び出された。
「リーバルン。わしは疲れた」
「父上、何をおっしゃいますか。まだまだ現役でやって頂かないと」
「ワンクラール、マイア、ローミエ、皆、逝ってしまった。これからは新しい時代がやってくる」
「父上……」
「リーバルン、明日からはお前が王だ。お前がどうしても嫌だと言うならルンビアでも構わん。しっかりと勤め上げるのだぞ」
「……はい」

 リーバルンは父アーゴ逝去のお触れを領内に発する共に、ルンビアの王就任と自らは後見人となる旨を知らせた。

 
 水に棲む者の王レイキールは母の喪が明けた後しばらくして、クダという貴族の女性を娶った。
 クダは珊瑚という王女を産んだが、珊瑚が生後千昼夜の式典を迎える前に身罷った。
 レイキールは珊瑚を溺愛し、娘のために生きていく誓いを立てた。

 それからしばらくの間、世界は平穏な時を過ごした。そしていよいよサフィが表舞台に登場する。

 

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 ジウランと美夜の日記 (2)

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