9.9. Story 1 ジウランのクロニクル

 Story 2 嵐の前

1 創造主登場

 フェイスの古城の出口に向かっていたデズモンドは美夜を背負ったまま、ジウランに声をかけた。
「ここから先の記録者はお前だ」
「えっ、そんな事、急に言われても」
「『事実の世界』で会おう。もっともわしとお前にとっては今の延長に過ぎんけどな」
「でも美夜はぼくを――」
「まだそんな事言ってんのか。じゃあな、リンによろしく」

 
 デズモンドが出ていくのと入れ替わりにマリスが戻った。
「いよいよ創造主との対面か」
「うん」
「この血塗られた手はきれいになるのだろうか」
「マリス。全ては創造主のゲームだよ。君が強く、素晴らしい人間だからこそ、このゲームの敵役に選ばれたんだ。気にする事ないよ」
「そうか。『事実の世界』では情に厚い覇王か……」

 
 いつの間にか、三人の人間が二人の前に立っていた。
「やあ」
 中央の男が笑顔で話しかけた。年齢がよくわからないが日本人のような顔付きだった。
「……リン文月?」
「そう。ジウランとは初めましてだね。マリスとは色々あったけど、まだ世界が元に戻ってないからやっぱり初めましてかな」
「あの、いつになったら『事実の世界』に戻るんですか?」
 リンは左に立つお下げ髪の女性に顔を向けた。

「そうねえ。あなたのおじいさんが言っていた通り、あなたたちがこの城を出た所でリセット、それでいいんじゃない?」
「……あなたは創造主エニク?」
「そうよ。こっちは先生、でわかるわよね?」
「ジノーラ?」
「ジウラン・ピアナ。本当に君たちは愉快だ。『死者の国』から魂を呼び寄せるとは――」
「先生」とエニクが言った。「今はそんな事より」
 ジノーラは「すまん」と軽く頭を下げる仕草をし、エニクが笑いながら続けた。
「最後の勝負もあなたたちの勝ち。これでこの銀河は正真正銘、リンの下に置かれるわ。おめでとう」

 
「……ぼくは何もわからないまま、戦いに巻き込まれた。そして今もほとんど何もわからないまま、ここに立っている。たったの半年なのにものすごく長かった」
「ジウラン」とリンが言った。「君を選んで正解……いや、正直に言おう。君はデズモンドのおまけみたいにしか考えてなかった」
「ひどい話だなあ。少し前までのぼくなら怒ってたよ」
「ジウランはまだいいさ」
 今度はマリスが愚痴り出した。
「私なんか敵役だ。早く『事実の世界』とやらに戻してほしいさ」
「マリスには悪いと思ってるよ。でもこれはあらかじめ決められたシナリオなんだ。君は最後の勝負には覇王として登場しなければならない。そして勝負の結果に関わらず――」
「最終決戦、ですね」
 ジウランが言い、リンは頷いた。
「そう。この城を出てから最後の勝負が始まる。君も思い出すだろうけど最後の敵が待ってる」
「私がその人物と?」
「君とジウラン、それに皆が助けてくれるはずさ」
「とにかく」とエニクが続けた。「もう関与はしないわ。最後は好きに戦ってちょうだい。あなたが負ければ、リンが何か考えるかもしれないし、そのままこの銀河をあきらめるかもしれないし。いずれにせよ私たちにはもう関係のない事」
「エニク。冷たいんだね」
 リンが言うとエニクは肩をすくめた。
「言い過ぎたわ。勝利するに越した事はない。でないと次のステップに進むのが――」
「エニク君」
 ジノーラがエニクにやんわりと釘を刺した。
「今の段階であまり出過ぎた発言をするのはどうかとも思うがね」
「そうでした。全てが終わってからにしましょう」

「――最後の方がよくわかりませんでしたが、とにかく私たちは城を出てその人物を倒せばいい訳ですね。どこに向かえばいいんです?」
「それはジウランが知ってるよ。君も思い出すはずさ」
「ジウラン、どこなんだい?」
「ぼくの故郷、そして君の第二の故郷だよ」

 

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