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20XX.10.XX 最後の日誌
ぼくは広間の床にぼんやりと座り込んでいた。
マリスは広間の端の方で座り込んで、もうすぐ別れなければならない両親と話し込んでいた。
爆発の下敷きになった人たちも皆、救い出され、ミミィの治療の終わった人たちは動けるようになっていた。
美夜も助け出されたが意識は戻っていなかった。
傍らで目を閉じたまま横たわる美夜、いくらこの世界が終わるとはいえ、いい気分ではなかった。
この世界が終わる前に話をしておかねばならないのに。『事実の世界』で巡り会うために必要な様々な事柄の確認を――
じいちゃんが少し足を引きずりながらやってきて、隣であぐらをかいて座り込んだ。
じいちゃんは何も言わず、ぼくの頭を乱暴にぐりぐりと撫で回した。
マリスもやってきて隣に座った。とても穏やかな表情をしていた。
「ジウラン。父も母も君に感謝していた。もちろん私の感謝も計り知れない。ありがとう」
帰還の時が近付いていた。
最初に身支度を整えたのはヌニェスとマフリ、ファランドールとミナモ、それに陸天の組だった。
「なかなか楽しい旅だったぞ」
虎の顔のヌニェスが言った。
「美夜もきっと良くなるわよ」
虎の顔のマフリが続けた。
「再会する機会はないと思うが」
ファランドールが言った。
「元気でね」
ミナモが続けた。
「ジウラン殿。黒魔術ではなく、死者と会話するその力。良い物を見せて頂きました」
陸天が言い、広間を出ていった。
次に出ていくのがリチャードたちだった。リチャードはカザハナと意気投合したらしく、ランドスライドと一緒に《精霊のコロニー》を訪問すると言った。
「ジウラン。君にはいくら感謝しても足りない。弱虫の私を変えてくれたのは君だ」
リチャードが言うとカザハナは笑った。
「何だかリチャードとは気が合うみたい。ねえ、『事実の世界』でもそうなんでしょ?」
ぼくは曖昧に小さく笑って手を振った。
「ジウラン。『事実の世界』でも会えるといいな」
ランドスライドは座り込んだままのぼくをぎゅっと抱きしめた。
水牙はジェニーと一緒だった。王先生と青龍、ミミィはいつの間にか姿を消していた。
「なあ、ジウラン。某とジェニーは、つまり、そういう事か?」
ぼくは本気で笑い、頷いた。
「じゃあね、ジウラン、デズモンド。『事実の世界』で会いましょうね」
ジェニーは水牙に腕をからめて出ていった。
コメッティーノとゼクトは残りの婦人たちをエスコートしていた。
「ジウラン。《愚者の星》からの付き合いだったが楽しかったぞ。またな」
ゼクトが肩を揺すりながら言った。
「ねえ、ジウラン。『事実の世界』ではリンや沙耶香に会えるんだよね?」
ジュネが言い、アダンが続けた。
「楽しみだね。あたしも独身じゃなくなる訳か」
「子供だっているのよね」
ニナが言った。
「わらわにも新しい人生が待っておるのじゃな」
葵が言った。
「おいおい、どいつもこいつもおかしいと思わねえのか」
コメッティーノが言った。
「もうすぐこの世界は終わっちまうんだから帰ったって意味ねえだろよ――なあ、デズモンド。この世界はいつ終わって、『事実の世界』とやらがスタートするんだよ」
「さあな、全ては創造主の意のままだが、おそらく全員が城を出たタイミングくらいでリセットされるんじゃないか」
「そうかあ。だったらあんたたちが最後に城を出てくれよな。まだこの世界を楽しみたい奴らもいるみてえだしな」